図面と実際の寸法が違うトラブルも続出

家具が予定した場所に納まらないのは、寸法を間違えたからではない。古い建物だけに、実際に施工してみたら、図面とは寸法が違うということがいくらでもあったと、乃村工藝社チームの萠拔さんはいう。

「建築図をもらって、それを基に図面を描くんですが、現場に行ったら壁の位置が全然違うとか、いっぱいありましたね。古い壁なので、経年変化で厚くなったりしていたんです。すると納まるはずの家具が入らない。壁が先にあるわけですから、家具をつくり直すしかありません。CADで図面を描くんですけど、実測値ではないので、実際の寸法は違っていることも多いんです。今さらどうする、みたいなタイミングで発覚することが結構ありました」

もうひとつ、別の苦労があったのは、このホテルのシンボルでもあるルーフトップバーの設置だった。

京都市東山区にある「ザ・ホテル青龍 京都清水」のルーフトップバー「K36 The Bar & Rooftop」
提供=仲佐猛(ナカサアンドパートナーズ)
京都市東山区にある「ザ・ホテル青龍 京都清水」のルーフトップバー「K36 The Bar & Rooftop」

「最初に来た時、屋上に上がったら、めちゃくちゃ汚かったけど、めちゃくちゃ景色がいい。やはり八坂の塔がすごく近いので、ここをホテルの価値にしない手はないと思いました。僕らが参加した時にはすでにルーフトップバーというアイデアはあって、それを僕らが図面化して具体化していきました」(小坂さん)

みんなが集まるようなシンボルをつくりたかった

しかし、実現には建築法規上、食品衛生法上、近隣対策上のハードルがいくつもあった。NTT都市開発の河野さんが語る。

「天候で営業が左右されないよう、最初は屋根を付ける計画でした。しかし、屋根をつくると建築基準法上の高さ制限を超えてしまう。でも、屋根と壁がないと、食品衛生法上、調理はできない。結局、屋上に、ごく小さな箱型の調理場をつくりました。

それから、近隣の方から、屋上から見下ろされるのではという心配の声が出てきました。それで、ルーフトップバーの周りを全部植栽にして、この高さの植栽があるので見下ろすことはできませんと、近隣にご説明しました」

こうした諸問題をクリアした上で、小坂さんが印象的な楕円だえんカウンターをデザインした。

「シンボルをつくりたかったんですね。みんなが集まるような。八坂の塔が夜空に浮かぶのがすごくきれいだし、そんな場所に人が集まってもらえるよう意識して造形しました」

ルーフトップバーに続く4Fのバー。元は天窓のある教室
撮影=永禮賢
ルーフトップバーに続く4Fのバー。元は天窓のある教室