90年近くも経った校舎をホテルに大改装
公募には10社が手を挙げ、住民代表の委員も入った審査の結果、NTT都市開発の提案が採用となった。NTT都市開発・京都支店の河野勝己さんは、公募に参加したのは、ロケーションと建物の魅力が大きかったからだという。
「清水寺が近いですし、京都市内が一望できる抜群のロケーションだということ。それから、校舎が昭和初期のもので、歴史ある建築だということ。京都市さんがつくられた建築ですけど、デザイン性がすごく優れている。これを活用してホテルにすればすごくいいだろなという判断で、そのまま校舎を使ったホテルを提案しました」
とはいえ、90年近くも経った校舎を、建物はそのままに改装することは容易ではない。建物がかなり傷んでいたことに加え、そもそも校舎のつくりなので、ホテルとしての運営に不可欠な導線や、空調・配管のスペースなどが皆無だったからだ。
それをどうやって、ラグジュアリーホテルに仕立てるのか。プロジェクトに加わっていたコンサルタントは、長年の付き合いがある乃村工藝社A.N.D.のエグゼクティブクリエイティブディレクター、小坂竜さんに声を掛ける。小坂さんは、ホテル、レストラン、商業施設などで数々の受賞歴があり、空間デザインの世界で知られたデザイナーだ。
プロジェクトに参加し、初めて現地を訪れた小坂さんは、思わずうなったという。
「洗濯物は見えるし、墓地もある」場所をどう生かすか
「いやあ、もう建物がボロボロで、大丈夫かなあと。それに周りが住宅地なんですね。物干しの洗濯物は見えるし、墓地もある。なので、ここでどうつくっていくのか、正直なところ最初は悩みましたね。
でも、立地そのものは、すごくいいなと思いました。建築的にチャーミングですし、八坂の塔があって借景も魅力的。借景のいいところを利用して、そうじゃないところは、例えば曇りガラスで明かりだけを取るようにして、ホテルのゲストたちの視界を制御すれば、ホテルらしい空間に仕立てていくことはできるなと思いました。
それで、建物の中をくまなく歩きまわって、見せるところ、見せないところを決めていきました。見せるところは、どうすれば、よりよく見せられるのか、ひとつずつプランを練りましたね」
例えば外観ひとつとっても、清水坂からホテルに入るアプローチでは、正面にホテルの建物と八坂の塔だけが見えるようにし、コの字形校舎のテラスからは、別棟レストランの屋根瓦越しに京都の山並みと沈む夕日だけが見えるようにした。建物が密集するエリアにありながら、視界に“雑音”が入らず、リゾートホテルのような伸びやかさを感じさせるのはこのためだ。