トマトの根を地上高1メートルにするわけ

とはいえ、自然の産物を扱う現場の作業を100%自動化するのは無理で、どうしても人材の確保が必要になる。「そのなかでも弾力的な作業のシフトのことを考えると、パートの主婦などを含めた女性従業員が戦力の主体になってきます」と浅井社長は言う。実際に、同社の従業員の約90%を占めるのが女性だ。そして、彼女たちから寄せられた要望に耳を傾けながら、働きやすいシステムに切り替えてきた。

「フルタイムの正社員とパートの中間として、“フレキシブル社員”という雇用形態を3年前に設けました。育児や家族の介護といったライフスタイルに応じて、『週4日勤務、1日6時間労働』といった具合に、働き方を自分で選べる仕組みを導入しています。子どもが大きくなって手がかからなくなったら、フルタイムに移行することもできます。女性従業員からは好評で、採用にも苦労していません」

そうした女性従業員が働きやすい現場にしていくための改善にも余念がない。通常のトマトの収穫は、かがんだ姿勢で行うため、どうしても腰が痛くなってしまう。ミニトマトを水耕栽培している浅井農園では、根の高さを地表から1メートルほどに持ち上げて、そこから茎を伸ばしている。なぜなら、腰をかがめなくても収穫ができるようになるからなのだ。当然、生産性のアップという副次効果も得られる。

撮影=山口典利

変わらぬ農業変革への探求

一方で、全国のスーパーに「プライベートブランド用」のミニトマトを直接納入するなど、生産販売一貫のバリューチェーンを構築しているのも、ほかの農業法人とは異なる浅井農園の特徴だろう。中間マージンを省くことで適正利益を確保しつつ、価格競争力も維持できる。また、生産と販売との間の情報共有をはじめとするDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めることで、出荷ロスの低減につながっていく。そうしたことで、積極的な研究開発に回せる原資を確保でき、さらなる成長の芽がぐんぐん伸びていく。

「当社のノウハウを水平展開すれば、さまざまな地方の、さまざまな農作物の生産性を、劇的に高められるでしょう。ただし、自動化やDX化はあくまでも手段。真の目的は、日本の農業を変革し、国民の食生活を守ることです」

大きく変貌した浅井農園だが、浅井社長の夢は、学生時代から微動だにしないようだ。

撮影=山口典利
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