ネット配信なら受信料を取る根拠はなくなるが…

問題は受信料だ。放送からネットに移行したあとも、受信料はなんの変更もなくこのまま取り続けるのか、ということだ。

従来の議論では、受信料は放送をするNHKを維持する「特別な負担金」なのであって、ネット配信するNHKの維持費ではない。「あまねく全国に」放送するためには、自前の全国的放送インフラを維持しなければならないので巨額のコストが必要となるが、ネットで「あまねく全国」に配信するためには、それほどコストはかからないし、そもそもその通信インフラはNTTのものだ。

放送の範疇にとどまっている限りは、これまでの議論からいけば(もちろんその議論も正しくないのだが)、NHKはその事業の維持費として受信料を取ることができる。だが、放送が主体でなくなるのなら、受信料を取る根拠はなくなる。

今回のワーキンググループは、NHKはネット配信を必須業務にすべきかという論点を議論する一方で、受信料はどうするのかという論点は後回しにしている。これでは、NHKの必須業務は放送からネットへ移るが、受信料はいまのまま取り続けるということになりかねない。まさしく「スマホをもっているだけでNHKは受信料を取るようになる」が現実になってしまう。

国民の理解なんて得ずにごり押しされる懸念

民放連もこれに気が付いていてワーキンググループに質問するという形で牽制している。つまり、ネット配信を必須業務にする議論が先行して、受信料の問題が議論されていないが、これでは受信料の問題をそのままにして、NHKにネット進出だけを許すことになりはしないかということだ。

ご存じのように民放はいち早くネット配信に進出し、そこから少ないながらも利益を出そうと奮闘している。そこに受信料という税金同様の絶対的収入源をもったNHKが出てくるのは迷惑きわまりないし、不公平でもある。

有馬哲夫『NHK受信料の研究』(新潮新書)

冒頭でも見たように、ワーキンググループのメンバーは「スマホを持っているんだから、NHK受信料を負担してください、なんていうのはまったくの問題外」といっているそうだが、もちろん、それは正しい。だが、これまでのNHKの自己保存ファーストの振る舞いをみると、国民の反発など顧みず、またしてもごり押ししてくるのではないかという危惧を抱いてしまう。

この問題を解決するもっともよい解決策は、受信料を廃止してしまうことだ。徹底的に規模縮小したうえで、ネットに移って、サブスク料と広告料と寄付と国からの交付金でやっていけばいい。地方の直営局は、経営上独立の放送局となり、広告料と寄付と自治体からの交付金で経営をまかなえばいい。それしか道はないように思える。

なお、受信料を巡るこれまでの議論を知りたいという人には、わかりやすさという点で以下のものを推奨する。

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