「本当に公共放送といえるのか」はスルー

ところが、翌年の2007年に設置された「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する検討会」、2015年に設置された「放送を巡る諸課題に関する検討会」では、現状追認したうえで、いかにNHKの維持費を国民に「公平負担」させるかということが議論される。これには唖然とする。なぜなら、放送史をひもとけば、もともとNHKは「私設無線電話施設者」、つまり勝手に放送を始めた事業者だからだ。勝手に、事業を始め、それを拡大し、野放図な経営をしているのに、そのコストをなぜ国民が「公平負担」しなければならないのか。まるでプロパガンダだ。

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ネット配信と放送の主客が入れ替わる重要局面

そして、最後に、冒頭でも紹介した現在進行中の「公共放送ワーキンググループ」がくる。ここでの議論は、これまで放送の補完業務としてきたネット配信の業務を、必須業務にすべきか、ということだ。言い換えれば、これまでNHKは放送によって「あまねく全国に」コンテンツを届けることを業務としてきたが、これをネットで行ってもいいかということだ。

これは、NHKのインターネット活用と業務の拡大を提言した2013年の「放送政策に関する調査研究会」の答申を踏み越えるものだといっていい。この答申は「放送を目的に設立された特殊法人という性格から(インターネット活用の)無限定の実施は不適切」と述べ、基本的に放送の補完の範囲での任意業務として実施できるとしていた。

今回のワーキンググループの議論は、ネット配信を必須業務とし、放送をその補完業務とする方向に進むことをNHKに許そうとしている。つまり、主客が入れ替わり、放送から通信に移ろうとしている。

そうしたいのはよくわかる。放送は時間に縛られ、操作性がない。つまり、放送時間にテレビの前にいなければならず、番組コンテンツも早送り、巻き戻しができない。通信とメディアの発達によって仕事場と自宅の区別がなくなり、若者だけでなく、ほぼすべての年代の日本人がスマホ中毒になりつつあるのに、これでは番組コンテンツを見てもらえない。

ネットに移しても、魅力のない番組コンテンツが人気を博すことはないが、ずっと見られる状態に置かれているので、見る機会が増えることはたしかだ。イギリスをはじめ、先進諸国でも番組コンテンツを放送からネットに移行させている。