免疫療法の副作用は必ずしも軽くはない

一昔前までの免疫療法は、このように効果はいまひとつで、しかし副作用はそこそこあるというイメージでした。がんの三大治療法は、外科的切除、抗がん剤治療、放射線治療であり、免疫療法は主力外だったのです。

免疫療法は副作用が少なくてやさしい治療法だと宣伝されることがありますが、必ずしもそうではありません。免疫についての研究が不十分だった時代のコーリー医師は、がんを治すためには発熱が重要だと考え、細菌を加熱・殺菌した抽出液を治療に使いました。生きた細菌を使うよりは安全だとはいえ、発熱に必要な量の死菌を注射し続けると体力を消耗します。

以前から悪性黒色腫や腎細胞がんといった一部のがんには、私たちがウイルス感染した際に免疫細胞から分泌されて免疫系を活性化させる物質「インターフェロン」が薬として使われてきました。主力ではないとはいえ標準治療の一つであり、保険適用です。ただ、治療のためにインターフェロンを投与すると、インフルエンザや新型コロナにかかったときと同様に、高熱や関節痛や全身倦怠けんたい感といった不快な症状が生じます。がん細胞を攻撃する免疫系だけをうまく活性化させるわけではなく免疫系全体に作用するので、こうした副作用は避けられません。それでも効果がすごく高いならいいのですが、がんに対するインターフェロンの奏効率は10~20%くらいだとされていました。

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以前の免疫療法の効果が乏しかったワケ

今では、以前の免疫療法の効果が乏しかった理由がわかっています。ノーベル医学生理学賞を授与された京都大学の本庶佑先生らの研究などで、免疫細胞にブレーキをかける分子の存在が示されたのです。

「がん細胞は1日に5000個も発生するが、免疫細胞が退治している」という話を聞いたことはありませんか? がん細胞の数が5000個かどうかはともかく、この話は大筋としては正しいのです。われわれの体では新陳代謝によって新しい細胞が次々と作られ、その過程でDNAのコピーミスが生じ、がん細胞が発生します。でも、そうしたがん細胞のほとんどは免疫系によって殺されます。ごく一部のがん細胞のみが、たまたま免疫細胞のブレーキを刺激することで免疫系の監視から逃れ、成長することができるのです。

レントゲンに映ったり、症状を引き起こしたりするほど大きくなったがん組織は、免疫系から逃れる能力に長けた、いわば「がん細胞のエリート」で構成されています。やみくもに免疫系全体を刺激したり、免疫細胞を活性化させたりしても、肝心のがん細胞に対してブレーキがかかっているのでは、免疫療法の効果は十分に発揮できません。これが昔の免疫療法が効かなかった理由なのです。