後部座席に乗車していた同乗者の一人は頭部および顔面を半分欠損し、即死。もう一人は重症頭部外傷で意識不明の重体でしたが、その後、死亡しました。

さいたま地裁の田尻克巳裁判長はこの事故について「単なる不注意ではなく無謀運転の結果であり、過失は悪質かつ重大」としながらも、過失運転致死罪で懲役2年(求刑懲役4年)の判決を言い渡しました。

結果的にこの事故も「危険運転」には問われなかったのです。

遺族の声が検察を動かした事例も

検察が過失運転致死罪で起訴した被告を、裁判の途中で危険運転致死罪に訴因変更するケースは極めてまれです。しかし、遺族らの声が検察を動かすこともあるのです。

2021年2月、大分市内の県道交差点で、直進していたBMWが、右折する車と衝突する事故が起きました。BMWを運転していたのは当時19歳の少年です。衝突直前のスピードは時速194キロで、法定速度(時速60キロ)の3倍を超えていました。この事故で右折車を運転していた50代男性はシートベルトをしていたのに車外に放り出され、死亡しました。

写真=遺族提供
時速194キロ出して被害車両と衝突したBMW。運転していた少年は「何キロ出るか試したかった」と供述したという。
 
大分の事故現場。道幅は広く見通しの良い直線道路だ。(井上郁美氏作成)

大分県警は、元少年の運転が、危険運転致死罪の適用要件である「制御困難な高速度」に当たると判断して、事故から2カ月後に同容疑で書類送検しました。しかし検察は「過失運転致死罪」で起訴しました。

少年は「何キロ出るか試したかった」と供述していましたが、検察は「衝突するまでまっすぐに走れていた」、つまり「制御できていた」として「危険運転」と見なさなかったのです。

検察の判断に納得できなかった遺族は、「一般道で時速194キロも出した末に起こった事故を過失で処理するのはおかしい」と声を上げ、署名活動を展開しました。

写真=遺族提供
「時速194キロの死亡事故がなぜ過失なのか?」遺族は支援者らと街頭署名を行い、検察庁に危険運転での起訴を要請した。

多くのメディアも相次いで取り上げました。それを受けた地検は一転、「危険運転致死罪」に異例の訴因変更を行いました。これから裁判員裁判が開かれる予定です。