「進行を制御することが困難な高速度」というあいまいな条文

交通事故を起こし、その結果、相手を死亡させると①「過失運転致死罪」か、それより刑が重い②「危険運転致死罪」に問われることになります。

①過失運転致死罪:7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金刑
②危険運転致死罪:1年以上の有期懲役刑(最大20年)
(飲酒運転など、他の罪と併合加重されると、最高で30年の懲役刑を言い渡される場合も)

②は、飲酒運転や赤信号無視、大幅な速度オーバーなど、悪質な交通違反による事故の厳罰化を訴える遺族らの訴えを受け、2001年の刑法改正で導入されました。しかし、被害者や遺族の苦しみは一向に癒えることはありません。

※参考 自動車運転処罰法
(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

1) アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
2) その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
3) その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
4) 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
5) 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
6) 高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為
7) 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
8) 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

「危険運転」とみなされる速度違反について、条文を見てみると「進行を制御することが困難な高速度」と記されているにすぎません。

具体的にどんな道で、何キロオーバーすれば「危険運転」になるのかについては明記されておらず、司法の判断は法改正から22年経過した今も大きく揺れています。

時速140キロ超で一般道を走って「過失運転」になる異常

危険運転致死傷罪の解釈をめぐって大きな注目を集めた交通事故裁判があります。

事故は2018年12月、三重県津市の国道で起きました。

ベンツ(排気量約3500cc)を運転していた元会社社長(当時58)が、直線道路を時速146キロで走行。国道沿いの飲食店から中央分離帯の開口部に向かって横断していたタクシーの右側に衝突し、タクシーの男性運転手と乗客3人を死亡、1人に大けがを負わせました。

三重県警は元会社社長を自動車運転死傷処罰法違反(危険運転致死傷)の疑いで逮捕。その後、検察は「危険運転致死傷罪」で起訴し、懲役15年を求刑。さらに、危険運転が認められなかった場合の予備的訴因として「過失致死傷罪」を追加し、懲役7年を求刑していました。一方、被告側は「本件事故はあくまでも過失運転である」と主張し、執行猶予を求めていたのです。

2020年6月16日、津地方裁判所が被告に言い渡したのは、「過失致死傷罪」で懲役7年という判決でした。これは、同罪としては最も重い刑罰です。しかし、この判決に対して、検察側、被告側双方が不服として控訴。審理は名古屋高裁で続けられました。