エネルギー価格が高騰する中、ショルツ政権は脱原発を優先

2022年後半から、欧米を中心に世界の中銀は利上げを続けている。つまり、金融政策については、インフレにブレーキをかけようとしているわけだ。物価の安定を最優先とするなら、財政政策も金融政策に協調して引き締められるべきだが、各国の政府は、景気の過度な冷え込みを恐れて、インフレ対策として補助金の給付を増やすなどしている。

ドイツのオラフ・ショルツ連立政権もまた、補助金の給付でエネルギー価格の引き下げに努めている。一方で、ショルツ政権は2023年4月15日をもって、国内で稼働していた3基の原発を送電網から切り離し、脱原発を完了した。国民の声はこのタイミングでの脱原発には慎重だったが、ショルツ政権がそれを押し切ったかたちである。

イザール原子力発電所周辺(写真=E.ON Kernkraft GmbH/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons

電源構成の6%に過ぎない原発を停止したころで影響は限定的だという見方は楽観的過ぎる。言い換えれば、6%の安定した電源をドイツは失ったことになる。

「物価の安定」より「脱炭素・脱ロシア」

一方で、ショルツ政権が電源構成の中核に据える再エネの出力は、気象条件に大きく左右される。風や日照、水量が不足すれば、発電量は減少せざるを得ない。本質的に再エネは不安定だ。

それに再エネを補うガス火力も、パイプラインを通じたロシア産天然ガスの利用をさらに削減するため、今後は液化天然ガス(LNG)への依存を高めることになる。LNGは市況性が強いため、価格が高騰するリスクを抱える。国内に豊富に存在する石炭を使わないなら、ドイツの火力発電はこうした脆弱ぜいじゃく性を抱え続けることになる。

そもそもショルツ政権は、脱炭素と脱ロシアにかなうとして再エネ投資を後押ししている。こうした再エネ投資はドイツの景気を下支えしているが、反面でドイツのインフレを促してもいる。つまりショルツ政権が推進するエネルギー戦略は、物価の安定という、ドイツ政府が伝統的に重視してきた経済観と相反する性格を強く持っているのである。

物価高に苦しむドイツ国民は置き去り

2022年のインフレが歴史的なひどさだったからこそ、労組は賃上げを要求している。とはいえ、賃上げはかえって物価の安定を阻み、家計の対する圧迫を強める恐れがある。財政を緊縮させずにインフレ圧力を和らげようとするなら、ショルツ政権はエネルギーの安定供給に努めるべきだったが、それと真逆の決断を行ったことになる。

歴史的なインフレを受けて、ドイツの世論は、脱原発の延期を支持するように、風向きを変えていた。最大野党であるキリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党の同社会同盟(CSU)のみならず、ショルツ政権に第3党として参加する自由民主党(FDP)もまた、電力供給の安定を優先し、原発の時限的な稼働の延長を模索していた。