過去の高インフレを経験していない「働き盛り」の労働者にとり、2022年のインフレは強烈な体験だったはずだ。Ver.diやEVGといったドイツの労組が大幅な賃上げを要求すること自体、致し方がないことといえる。労組側の賃上げ要求の全てを経営側が受け入れることはないだろうが、相応の賃上げは行われることになるのではないか。

警戒される賃金・物価スパイラル

そもそも賃上げは、物価の上昇に遅行する。物価が上昇したなら賃金が増加しなければ生活が苦しくなるため、労働者とすれば賃上げを要求することは当然である。難しいのが、賃金が増加すると、それが企業の生産コストを増加させ、家計の需要も刺激してしまうことだ。つまり、賃金の増加は、需要を刺激し、さらなる物価の上昇につながる。

こうした賃金・物価スパイラルが生じると、インフレが粘着性を強めるため、物価はなかなか安定化しない。さらに、物価上昇に賃金増が追い付かないため、個人消費が圧迫され続けることになる。結果的に、物価高進と景気停滞が併存する状況、すなわちスタグフレーションが定着することになる。こうなると、状況は厄介である。

日没のブランデンブルク門
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ドイツが「物価の安定」に注力してきたワケ

ドイツは、物価の安定を最優先とする経済運営を貫いてきたことで知られる。

第1次大戦後、巨額の賠償金を捻出するために、当時の中銀であるドイツ帝国銀行が金融緩和を強化した結果、ドイツはハイパーインフレに陥った。それが後のナチス政権の誕生の一因となった苦い記憶から、戦後のドイツは物価の安定に注力してきた。

特に、戦後の西ドイツ、そして1999年のユーロ加盟までのドイツの金融政策の担い手であったドイツ連邦銀行は、世界でも有数のタカ派の中銀として知られていた。その伝統は現代でも生きており、ユーロ加盟後もドイツ連銀総裁は、欧州中銀(ECB)の理事会において、物価の安定を最優先とするタカ派の立場から一定の影響力も持つ。

また物価の安定は、ドイツ政府が健全財政を志向する大きな理由の一つにもなっている。いたずらな財政の拡張は、景気を刺激して、インフレを加速させるからである。ユーロ加盟で金融政策の自律性を失った以上、財政政策を引き締めることでしか、物価の安定を図ることはできない。そのためドイツは、健全財政を志向してきた面も大きい。