メディアの怠慢が招いた食料安保の危機的状態

1960年代から80年代には、6~7月にかけてJA農協が主導した米価闘争が毎日のように新聞に大きく取り上げられていた。これは自民党の農林族議員を巻き込んで大変な政治闘争となっていた。しかし、食管制度による政府買い入れがなくなった現在、国民がJA農協の政治活動をテレビや新聞で見聞きすることは少なくなった。

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選挙の際、各政党の農政上の主張が一般紙に載ることはない。載るのは、JA農協の機関紙の日本農業新聞だけで、一部の農家にしか読まれない。仮に載ったとしても、与野党とも農業保護を高めようという主張ばかりで、大差はない。どの政党も農家票が欲しいのだ。

正しい情報や知識が報道されないことは、農林水産省、農業団体、農林族議員などの思うツボだ。国民は自分たちがどのような影響を被るか考える機会が与えられず、農業村の内々の議論だけで食料・農業政策が作られるままにしている。その挙げ句、減反政策でコメ生産が大幅に減少させられ、食料危機が起きると国民の半分以上が餓死するかもしれないという事態に陥っている。

TPP交渉が妥結する前、農林水産省の大先輩から会いたいという申し入れがあった。TPP交渉が日本の農業にどんな影響を与えるのかと聞かれたので、ほとんど影響はないでしょうと答えた。それを聞いて、彼は残念がった。影響があれば、農林水産省は大掛かりな対策費を講じる。その一部が彼の団体にくれば、彼を含めた職員の給料を増やせることができると言うのだ。

貿易を自由化すると、農業に影響が出るので生産性向上を図る必要があるとして、予算措置を講じて、農林水産省OBのいる団体へ、国からお金を出す。しかし、生産性は向上しない。また、次の通商交渉で自由化を迫られると、同じことが繰り返される。牛肉の輸入自由化以降、4半世紀にわたり、3兆円もの巨額の財政資金を投下してきたが、畜産の生産性は、全くと言っていいほど上がっていない。乳価も牛肉の価格も下がるどころか大きく上昇した。

農業予算や関税などの政策で生計を立てている農林水産省、農業団体、農林族議員、農学者など農政共同体の人たちと、自立できなく農政共同体の助けを求める農家の人たちの“共生”とも言うべき関係が、農業政策を作ってきた。

大学の研究者も頼りにできない

では、大学などの研究者が、農業や農業政策について正しい意見を言ってくれるのかというと、逆だ。

一般の公務員は兼業を厳に禁じられている。講演も自由にできない。しかし、国立大学の教授には兼業禁止義務が課されていない。国公立、私立を問わず、農学部の教授に主に講演依頼をするのはJA農協である。スポンサーであるJA農協の批判はできない。また、JA農協を批判すると、学生の就職を拒否される。JA農協のアメとムチによって、農業経済学者はJA農協を中心とする農業村の一員となる。