正確な情報を報道しないマスメディア

これは、このTV局ばかりではない。

新聞各紙も記者の数が減っているため、記者は2年ほどの短い期間で各省庁をくるくる回る。農林水産省だけで100以上も課がある。2年くらいで、農林水産業の現状や問題点、政策の背景などを勉強できるはずがない。酪農だけでも、正しい基礎知識を身に付けようとすると、どんなに頑張っても1カ月はかかる。

結局、記者は、担当する省庁の政策について全くと言っていいほど知識を持たないうちに、次の省庁を担当させられる。知識がないので、政策を批判することなどできない。今回の酪農のように、問題が起きると、付け焼き刃で省庁が用意してくれた資料を勉強し、省庁が言うままを忠実に報道する。

役所は自分に都合の悪い情報は隠そうとするが、記者は気が付かない。資料が偏っているとか間違っているとかを指摘できるだけの専門知識はない。政策の背景に、その省庁の天下りや業界団体との利権関係などが絡んでいそうだなどの嗅覚を発揮することはできない。バター不足の時も、本質的なところを理解しないまま、記事を書いていた。それでも、各紙の記者が同じことを報道するので、自分だけ批判されることはない。“特落ち”がなければよい。

私のような研究者への取材もいい加減になった。20年くらい前は、私のオフィスに出向き、1時間くらい政策の背景にある諸事情や政策の効果や問題点について、角度を変えながら、さまざまな質問をしていた。こうして十分勉強してから報道していた。

それが、簡単な電話取材に代わり、「コメントだけください」という記者も出てくるようになった。また、事実関係を確認したり政策の評価を聴いたりするために、私にコンタクトする記者の数も少なくなっている。農政については、私が書いた本が一番参考になると思うのだが、読んでいる感じはしない。

メモを取る記者
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国民が抱く「農家のイメージ」は実態と乖離

農業の経済に占める位置や農業者の就業人口に占める割合が著しく低下したため、国民の農業への関心が低下している。そうでなくても、国民は農業について間違ったイメージを持っている。酪農については、実際に放牧されている牛は2割に過ぎないのに、ほとんどの人が大地で草を食む乳牛から牛乳は作られていると思っている。

多くの国民は、戦前までの貧農のイメージから、農家は保護しなければならないと、漠然と思っている。酪農経営が苦しいと主張されると、かわいそうな酪農家を国の力で助けるべきだと思う。しかし、農家の車庫に3台も車があるのを知らないだろうし、まして、ポルシェに乗っている農家がいるとは思いもつかないだろう(※参考 酪農バブルの実態