文脈を理解するのが苦手

特性③言葉を字義通りに受け取ってしまう

ASDの人は、私たちが普通に使っている言い回しに戸惑っている場合があります。

たとえば、会社に掛かってきた電話をとったとき、先方から「○○さんいらっしゃいますか?」と聞かれることがあります。通常の応対は、「はい、少しお待ちください」と言って、○○さんに電話を替わるというものですが、ASDの人の場合、それがうまくできません。

多くのASDの人なら、「○○さんいらっしゃいますか?」と尋ねられたら、即座に「はい、いらっしゃいます」と答えるのではないでしょうか。ASDの人の特徴のひとつに、相手が言った言葉をそのまま繰り返す「オウム返し」があります。

そして、オウム返しをしたあとに、黙り込んでしまうに違いありません。少なくとも、○○さんに電話を替わるという行動はとりません。電話を掛けてきた相手の意図が、○○さんが“いる”か“いない”かを知りたいということではなく、○○さんと電話で話したいということなのだと、理解することができないからです。

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「ちょっと早め」と言われても…

私の患者さんは、職場で、上司が「鉛筆がない!」と声を上げたときに、「鉛筆がなくなった」という状況を表現したに過ぎないと受け取り、聞き流していました。しかし、周りの社員が慌てて上司に鉛筆を手渡した光景を見て、「不思議に思った」と言います。上司のその言葉に、「鉛筆を取ってくれ」という意図が含まれていることを、あとで同僚から聞き、驚いたそうです。ASDが「想像力の障害」といわれる所以です。

また、字義に忠実であろうとしすぎるために、逆に、曖昧な表現に突き当たると、ASDの人は混乱します。「これ」「あれ」といった指示語は、具体的に何を指しているのかがわかりづらく、「これとはどれですか」といちいち聞き返さなければなりません。普通なら話の流れからわかるのですが、ASDの人は文脈を理解することも苦手です。

「ちょっと早めにお願いできるかな」と頼まれたときも、相手の言う「ちょっと早め」が、どれくらいなのかが想像できません。「5分早く」なのか、「30分早く」なのかがわからずに戸惑い、無駄に神経をすり減らしてしまうのです。ASDの人に話し掛けたり、指示を出したりするときには、そのつど具体的な対象物の名前を示し、時刻や時間の長さ、分量なども具体的な数字で伝えることが有効です。