※本稿は、加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
外来の半数以上は「発達障害ではない」患者
医療に携わる者の目から見て、「発達障害」がより多くの人に理解されるようになること自体は、喜ばしいことだといえます。しかし、社会での認知が広がるにつれ、「発達障害」という言葉が独り歩きを始め、どうかすると、脇道に逸れてしまいかねない状況が散見されるようになりました。
実際、「私は発達障害だと思います」と言って専門外来を受診する患者を、発達障害の専門医が診断した結果、「発達障害ではない」とわかる人が続々と現れるといった現象も起きています。
私の外来では、訪れる患者のうちの半数以上が発達障害ではありません。
しかし、発達障害をよく知らない医師であれば、患者の訴えを鵜呑みにして、発達障害と診断してしまうかもしれません。いま、医療現場で問題になっているのは、そうした発達障害の過剰診断なのです。
また、発達障害が、専門医であっても正確に診断することが困難なのは、表面上の症状(特性)だけに着目すると、似て見える精神疾患や精神障害があるからです。
発達障害のことをあまりよく理解していない医師の場合、似ている症状を示す他の疾患と間違えて診断してしまうケースもあります。また、発達障害同士も似た特性を持ち合わせているため、鑑別に時間がかかる場合があります。
コミュニケーションがうまく取れない
1.統合失調症
発達障害と間違われやすい精神疾患・精神障害がいくつかあります。そのなかでも特に、ASD(自閉スペクトラム症)との鑑別が難しい疾患の筆頭にあげられるのが「統合失調症」です。統合失調症は、主に青年期に発症する精神疾患で、考えがまとまりづらくなり、気分や行動に異変が生じ始め、日常生活や人間関係にも支障をきたす病気です。
最もよく知られている症状が幻覚(幻聴)と妄想です。周りの人が自分の悪口を言っているような気がして、被害妄想を引き起こし、他人に攻撃的な行動をとることがあります。
また、思考がまとまらないため、突飛なことや支離滅裂なことを話して、人とコミュニケーションがうまくとれなくなります。さらに、しだいに感情表現が乏しくなり、意欲も低下して、他人との関わりを避けるようになっていきます。
統合失調症のこうした症状が、ASDの特性と部分的に似て見えることがあるのです。
たとえば、ASDの人は、過去のつらい出来事が突然フラッシュバックして思い出され、感情的な言動をとってしまうことがありますが、その症状は統合失調症の幻覚や妄想と似ています。
また、ASDの人は、他者への関心が薄く、人と積極的にコミュニケーションをとろうとしないため、感情表現も控えめなことが多いといえます。その様子が、感情の起伏が乏しい統合失調症の症状と似て見える場合があるのです。