「自己と他者の関係性」で見るとむしろ正反対

このように、統合失調症とASDは断片的な症状だけを見ると、似ているように思えるのですが、決定的に異なる点があります。それは、“自分と他者”のとらえ方です。統合失調症は、“自我の障害”ともいわれ、自分と他人の境界線がはっきりせず、他人の影響を受けやすくなり、自分が誰かからコントロールされていると考えるようになります。

つまり、他人のことを必要以上に意識するのです。一方、ASDの人は、他人に関心がなく、自分が人からどう見られるか、どう思われるかをまったく気にしません。自己と他者の関係性という点で両者を比較すると、正反対と言っても過言ではないのです。

なぜ幻覚や妄想のような症状が生じたり、感情表現が乏しかったりするのか。そのベースにある障害の本質を注意深く見極めなければ、両者の鑑別が難しくなり、誤診が生じてしまいかねないということです。

統合失調症とASDの鑑別についていえば、統合失調症は青年期以降に発症し、症状は徐々に進行していきますが、ASDは生まれつきの障害であり、進行性のものではないという違いもあります。問診で子どもの頃の様子を親などから聞き取れば、その違いは明確になるはずです。

同じ行動を何度も繰り返す

2.強迫性障害

「強迫性障害」も、ASDと間違えられやすい疾患のひとつです。強迫性障害は、非常に強い不安感や不快感(強迫観念)をもつことにより、その不安や不快を打ち消そうとする行動(強迫行為)を繰り返してしまう障害です。

たとえば、外出時に玄関を施錠したのに、本当に施錠したかどうかが気になり、家に戻って確認するという行為を何度も繰り返し、会社に遅刻してしまうといった状況が起こります。また、外から帰ってきて手を洗うとき、汚れやばい菌が十分落ちていないような気がして、何十回も手洗いを繰り返したり、長時間手を洗い続けたりしてしまうのです。

このような「強迫行為」を、本人も無意味で馬鹿馬鹿しいことだと理解しています。しかし、それでもやめられないのが強迫性障害です。

実は、こうした強迫行為が、ASDの人の“こだわり行動”と似て見えることがあります。ASDの人は変化や変更を嫌い、同じことを繰り返したり、同じ方法をとることを好んだりする傾向があります。