※本稿は、加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
一般的に「言葉の習得が遅い」と言われるが…
成人してから発達障害とわかるケースでは、当事者のみならず、あるいは当事者以上に、家族をはじめ、学校や職場で当事者と関わる人たちも戸惑い、苦しみ、悩んできたといえます。
ASD(自閉スペクトラム症)の場合は、幼少期から特徴的なサインが見られるのですが、それが深刻なサインであることに、家族などの身近な大人が気づくことができず、やり過ごしてしまうケースも少なくありません。
たとえば、ASDの子どもは発語が遅いと、一般的に言われることが多いのですが、定型発達の子どもであっても発語のタイミングにはばらつきがあるものです。
また、ASDの人の場合、言語自体の習得はむしろ早いことが多いです。教えてもいないのにひらがな・カタカナを覚えてしまった、姉が勉強していたアルファベットを書いていた、などというエピソードはめずらしくありません。
ASDの場合の言葉の習得は「会話で学習しない」ことが最大の特徴です。子ども同士で「ごっこ遊び」のような場を共有することがありませんから、会話のキャッチボールのスキルが発達しないのです。
「学校での違和感」「家での違和感」は同じではない
あるいは、幼稚園や小学校で友だちとのコミュニケーションが少なく、集団活動に参加しないような状況をうかがい知ったとしても、「性格の問題だろう」「親の子どもの頃と似ているから不思議ではない」と、あまり深刻に受け止められずに過ごしてしまうケースもあるかもしれません。
発達障害は家族性があるため、親やきょうだい、祖父母などにも、同じような特性をもつ身内が存在している可能性が高く、その場合は問題視されにくい傾向があります。
家族のなかに発達障害の傾向のある人がいると、「うちのなかではこれが普通」となってしまい、誰も違和感をもたなくなるのです。
特に、知的レベルの高いアスペルガー症候群の場合は、学校のテストでは高得点を取り、成績も優秀なことが多く、生活面で生じるつまずきがマスクされやすくなってしまいます。
「勉強ができるから」という理由で、親も学校の先生も、他の問題を軽視しがちになるのです。