「早期診断」はできるけど「早期治療」は存在しない
そして、成人してから、職場などで人とコミュニケーションがとれない、仕事がうまくこなせないといった問題が突然発覚し、離職や転職を繰り返すことになってから、「なぜ、こんなことになってしまったのか」と、親も戸惑い、頭を抱えることになります。
そのときに、「発達障害ではないか」ということに本人や親が気づき、専門外来への受診に結びつけばまだよいのですが、そうした情報や知識がなく、まったく気づかないままになってしまうケースもあります。
しかし、そもそも「早期治療」は存在しません。母親が周りに合わせなければ! と無理に「しつけ」を強制することは、多くの場合、母親との断絶をまねきます。
むしろ、「変わっていても成績が良い子」を単純にかわいがる祖父母に懐きます。小さい頃、変わっていても家族に受け入れられていたASDの人は、大人になっても性格の歪みが少ないといえるような気がします。
「暗黙の了解」を共有できない
ASDのなかでも知性の高いアスペルガー症候群の人は、家族にも、学校の先生にも障害を気づかれずに大人になるケースが多いのですが、その特性によるつまずきは、就労の場で顕著になる場合が大半です。
そして、その人のことを発達障害と知らずに雇用した企業では、優秀だと思っていた新入社員が職場で予期せぬ問題をたびたび生じさせることで、上司や同僚が戸惑い、苦慮するという展開になります。
たとえば、周りの人が忙しそうに仕事をしているのに、一人だけ定時でサッサと帰ってしまう。指示された仕事が終わったとき、「終わりました」と報告もせず、「次に何をやればいいですか」と質問してくることもありません。
定型発達の人から見てとれるこうした行動は、ASDの特性が原因で生じる不適応行動の代表的なものです。
周りの人たちに合わせないのは職場によくある“暗黙の了解”を彼らが共有していないからです。周囲の状況から一般には自然と導き出される次のステップに、彼らが自ら移ることは期待できません。
多くの人は、「上司から指示された仕事を終わらせたら、そのことを報告し、次の仕事はどれかを聞きに来るのは当然のこと」と考えるでしょう。