とにかく苦手なのが「ホウレンソウ」

ASDの人の特徴は、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が苦手なことです。

自分が行った仕事は、相手もわかっているものと考えてしまい、それを上司と共有するために必要な「ホウレンソウ」を行いません。これが積み重なると、周囲との認識のズレが大きくなってしまいます。

面倒なようでも、その日その日の仕事の進み具合を「日報」のような形で提出するように指示することで、こうした問題を解決することができます。

また、彼らは電話応対も苦手です。特に、相手が見知らぬ人である場合は、なおさら困難になります。私たちは、電話で話している相手の口調や声のトーンから、相手が何を求めているかを推測しています。

差し障りのない言葉をはさみながら、自分と何を共有しているかを推測して、失礼のないように、必要な情報を引き出そうとします。

定型発達の人の場合、こういった一連の作業は特に努力を要することなくできてしまうのですが、ASDの人にとっては最も苦手な作業のひとつになります。

その結果、周囲の人から「気が利かない人」「仕事ができない人」「常識がない人」といったレッテルを貼られてしまうのです。

ストレスを感じている人
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
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指示を出してくれさえすれば解決するのに…

一方、ASDの当事者からすれば、「終わったことを報告してほしいなら、最初からそう言ってくれればいいのに」と考えます。

ASDの人は指示されたことは忠実にやりますが、言われなかったことまで、踏み込んでやることはありません。指示した上司が、自分に対してどんな働き方を望んでいるかは想像もつかないからです。

気を利かせてやる、先回りしてやる、ということもしません。そのうえで、「言われていないことをやらないのは当然なのに、それをやらなかったというだけで自分の評価が下がるなんて不条理だ」と考えるでしょう。

このように、ASDの人と一般の人の常識や認識には大きな齟齬そごがあります。

少なくとも、不適応行動をとっている当事者がASDという発達障害をもっているということを周りの人が把握し、その特性を正しく理解しなければ、双方の隔たりを埋めることは難しいのです。