「フラッシュバック」に苦しめられる

5.PTSD(心的外傷後ストレス障害)

「PTSD」は、日本語では「心的外傷後ストレス障害」と訳されます。戦争や災害、事故、犯罪などによって、生命を脅かされるほど怖い思い、つらい思いをした体験がトラウマ(心の傷)となり、その記憶が何カ月も、あるいは何年も経ってから突然よみがえる「フラッシュバック」が生じ、精神が不安定になり、警戒心が過剰に強くなったり、動悸がしたり、不眠になったりといった心身症状が現れます。

ASDの人も、これと似た「フラッシュバック」が生じることがあります。何の前触れもなく、突然過去のつらい体験や嫌な思い出が、あたかも目の前で起こっているかのように鮮明によみがえってきます。その結果、不安や緊張、恐怖といった激しい感情が湧き起こることがあります。

PTSDでは、トラウマと関わりのある場所や人、状況を回避しようとする反応が起こりやすく、その経験を思い出して衝撃を受けたり、つらい思いをしたりしたくないという防衛反応から、経験自体を忘れてしまったり、感情を麻痺させて無反応・無表情になってしまったりする人もいます。ASDの人も、感情表現が乏しく、無反応・無表情に見えることがあり、PTSDと似て見えるケースがあります。

PTSDとASDは、トラウマとなるような、生命の危険を感じるほどの衝撃的な出来事を過去に体験しているかどうかで見極めます。しかし、どちらの「フラッシュバック」も、脳のなかで起きている反応は同じようなメカニズムではないかと考えられます。その点を踏まえると、ASDの人は、そうでない人と比べてPTSDになりやすい可能性があるかもしれません。

日本における若い女性のアロマセラピストカウンセリング患者
写真=iStock.com/Yue_
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「ひきこもりの原因は発達障害」という勘違い

「ひきこもり」とは、障害や病気の名称ではありません。厚生労働省では、ひきこもりを、「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人と交流せずに6カ月以上自宅に引きこもっている状態」と定義しています。つまり、原因にかかわらず、家族以外の人と関わりをもたずに家のなかに長期間閉じこもっている状態を「ひきこもり」というのです。

近年の内閣府の調査では、15~39歳のひきこもりは54万人、40~64歳のひきこもりは61万人と推計されています。若者と中高年を合わせると、全国で100万人以上のひきこもりの人がいるということです。

こうしたひきこもりの多くに、発達障害が関わっているのではないかと考えている人が少なくないようです。特に、ASDの人たちは、人と積極的に関わろうという意識がなく、コミュニケーションスキルも乏しいために、社会活動になじみにくい傾向があり、ひきこもりになりやすいと思われがちなのです。

実際、ASDのなかにひきこもりの人が一定数いることは否定できないと思います。ですが、だからといって、「ひきこもり=ASD」あるいは「ひきこもり=発達障害」ということにはなりません。

そもそも、ひきこもっているすべての人が、なんらかの精神障害をもっているわけではないということを踏まえる必要があります。