「日本のサッカー界を引っ張ってほしい」

安藤が何より驚いたのは、三木谷の電光石火の行動力だった。思いついた数日後には、もうイニエスタの自宅に向かっていたのだ。

「イニエスタは喜んでいましたね。三木谷自らわざわざ家に来てくれたわけですから。握手で迎えてくれて。中国に行くことはほぼ決まっていたと言われていましたけど、決めきれない何かがあったのだと思います。そこに、日本から三木谷がやってきた。FCバルセロナのメインパートナーのトップですからね」

バルセロナ郊外の大きな邸宅の一角には、ミーティングルームがあった。プロジェクターがあり、大きなモニターが備え付けられていた。イニエスタはここに家族やマネージャーも招き入れた。三木谷が、にこやかに話し始める。安藤は語る。

「楽天グループという会社やサービスの説明から、ヴィッセル神戸というチームの素晴らしさ、日本の生活環境、神戸の街の特徴まで、いろんなことを話していきました。僕が印象深かったのは、日本のサッカー界を引っ張っていってほしい、という言葉です。イニエスタは、この言葉に一番、反応したんじゃないかと思います」

世界ナンバーワンのミッドフィルダーが日本にやってくる。それは、ヴィッセル神戸というクラブチームだけの価値ではない、ということを三木谷はよくわかっていた。日本のサッカー界のためにもイニエスタには来てほしかったのだ。

写真=iStock.com/Sean Pavone
神戸の街並み ※写真はイメージです

「これは現実なのか」とさすがに興奮した

この電撃訪問の後、三木谷は日本に戻った。イニエスタはその後、家族とパリで1週間の休暇を取ることになっていた。パリのディズニーランドを訪れると聞いた三木谷は、なんと日本からイニエスタを迎えに行くことを決意する。

そしてこのパリで、イニエスタはヴィッセル神戸との契約にサインをすることになる。

「目の前で三木谷とがっちり握手をして。これは現実なのか、とさすがに私も興奮しました。とんでもないことが起きた、と思いましたね。しかも、三木谷はそのままプライベートジェットでイニエスタを日本に連れてきてしまうわけです」

イニエスタのスタッフも乗り込んだため、安藤は寝る場所がなくなってしまい、ジェットの床に寝転んで寝ることになった。もっとも、目と鼻の先に、世界的なサッカープレーヤーがいるのだ。そうそう眠れるものではなかった。

三木谷はこのとき、

「これから新しい友達を連れて東京に帰ります」

とイニエスタとのツーショット写真とともにツイッターに投稿している。日本が大騒ぎになったのは、言うまでもない。