「楽天はもっと大きくなるぞ」という無言のメッセージ

一方、三木谷は、冷静そのものだった。

「でも、本人の中では、相当にワクワク盛り上がっていたと思います。ただ、表面的には見せないんですよね。これはいつものことです」

だが、15年にわたって常に三木谷の重要な場に一緒にいるのが安藤である。いつもとは微妙に違う息づかいを、すぐ隣で受け止めていた。

「どうだ、楽天はもっと大きくなるぞ。そんな無言のメッセージを感じました」

実際、楽天はこの後、世界でのプレゼンスを一気に上げていくことになる。サービス利用者数は、今や世界で約16億人。グローバル流通総額は、27兆円規模となっている。

メインスポンサーであるRakutenの文字が掲げられた「カンプ・ノウ」
写真=iStock.com/AbelBrata
メインスポンサーであるRakutenの文字が掲げられた「カンプ・ノウ」

世界最高のミッドフィルダーがJリーグでプレーする

プライベートジェットの中で三木谷が決めたのは、実はFCバルセロナとのパートナー契約だけではなかった。安藤がもう一つ、忘れられないのは、日本だけでなく世界を驚かせた、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手の獲得だ。

FCバルセロナのスターにして、スペイン代表としても活躍した世界最高のミッドフィルダー。彼がJリーグでプレーするという夢のようなニュースは、日本のサッカーファンに大きな衝撃を与えた。

「アンコーさ、このままじゃ、決まっちゃうよな。こうなったら、直接、会いに行くしかないか」

アメリカから日本に戻るジェット機の中で、三木谷は安藤につぶやいた。2018年4月のことだ。

イニエスタが海外に移籍する、というニュースは、その年の春から流れ始めていた。交渉していたのは、中国のクラブチーム。年俸約35億円に加え、イニエスタが所有するワイナリーのワインを約46億円で買い取るという破格の条件を出していたとも報じられていた。

すでに中国に招待されていたという話もあった。安藤は回想する。

「ゴールデンウイークの直前でした。楽天はFCバルセロナのスポンサーですから、すぐにイニエスタにアポイントを取ってもらって、三木谷自らがイニエスタの自宅を訪れたんです」