沙知代夫人には「お前は黙ってろ!」

中学生を前に、野村は「私のせいだ」と頭を下げた。このとき、傍らで見ていた沙知代夫人が「そうよ、アンタのせいよ」と大きな声を出した。

その瞬間、いつにない強い口調で野村は言った。

「お前は黙ってろ!」

写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです

普段見せないすごい剣幕に、沙知代夫人も口をつぐんだという。

長谷川晶一『名将前夜』(KADOKAWA)

一連の野村夫婦のやり取り、いや、オーナーと監督のやり取りについて、この現場にいた多くの少年たちがハッキリと記憶していた。それだけインパクトの強い場面だった。

ある意味では息子・克則の「最後の夏」に向けて、野村夫妻の尽力で誕生した港東ムースの「最初の夏」は悔しい結果に終わった。

克則は堀越高校に進学し、幼い頃からの憧れである甲子園を目指すことを決めた。

一方の野村克也は、強い思いで臥薪嘗胆がしんしょうたんを誓っていた。「勝負師」である野村が、このまま手をこまねいているはずはなかった。チーム強化のために、ここからさらに本腰を入れて少年野球指導に乗り出すことになる――。

関連記事
【第1回】バッティングはこうやるんだ…名将・野村克也が初めての少年野球指導で披露した「全球ホームラン」の伝説
「フルボッコされ続けた黒歴史…」日米野球の屈辱晴らしたMVP大谷翔平の試合前の"名スピーチ"に抱く隔世の感
日本は平均4312万円、米国は平均5.6億円…観客数はメジャーより多いのにNPB選手の年俸が低いワケ
大谷翔平の超人的活躍は野球マンガを超えていた…私が日本のWBC 優勝を予想できなかった理由
これだけは絶対にやってはいけない…稲盛和夫氏が断言した「成功しない人」に共通するたった1つのこと