「アテンション・エコノミー」という言葉がある。かつて言論は有限であり、何を人々の関心事として取り上げるべきかを決めるのは言論だった。ところが、インターネットがある現在、有限なのは人々の関心のほうで、言論はそれこそ無限にある。従って人々の関心の争奪戦こそが今日の問題の核心だという考え方である。下手をすれば、社会にとって本来重要な事項が人々の無意味な関心事の前にかすんでしまいかねないのである。

SNSなどによる情報増幅やフェイクニュースを含めた情報偏食を野放図に報道や言論の側が取り上げるとすると社会は混乱しかねない。朝ドラの視聴率と人気度の乖離かいりもこうした観点から見てみる必要もあるのではなかろうか。

年齢を問わず低下してきたNHK人気番組の視聴率

これまで見てきたビデオリサーチの世帯視聴率データでは、男女年齢別の動向がわからない。そこで、最後に、「NHKの朝ドラ」「大河ドラマ」「7時のニュース」についての男女年齢別の個人視聴率のデータ推移からどんな動きが起こっているかを紹介しておこう(図表4参照)。

図表を見ると全体として男女ともにテレビの視聴率は高年齢者ほど高い傾向が明確に認められる。特に50代以上で高くなっており、逆に、10代~20代では非常に低くなっており、若者のテレビ離れを端的に示している。

2000年代末期の3カ年平均(図表赤線)から2010年代末期の3カ年平均(同黒線)にかけて男女年齢別の視聴率がこの10年間でどう変化しているかを見てみよう。

連続テレビ小説は、その視聴が毎日の習慣と化しているからか、各層ともほとんど変化がない。これに対して、大河ドラマとニュースでは、男女ともに各年齢層で視聴率が低下していることが分かる。この10年の変化としては、テレビの視聴率が低下しているとしても、若者が低下し高齢者がそのままというのではなく、全般的に低下していると見たほうがよさそうである。そうだとすると視聴率の低下はインターネットの影響とばかりはいえない可能性がある。

ニュースについては、若年層はもともと低い視聴率なのであまり変化がない点、また男女別には男性の方の低下の方が目立っており、男女差が小さくなる傾向にある点にも気づく。

視聴率の年齢差が大きいことや、若者だけでなくこれだけ各年齢層で視聴率が低下してきているということからは、NHKの受信料をテレビ装置がある世帯一律に集めることには無理が生じていると見なさざるを得ないだろう。

NHKにとって、視聴率以上に朝ドラや大河ドラマで国民の関心を引き付けている状況が、現受信料方式を維持するための追い風となっていると考えられていてもおかしくはない。

それだけNHKの番組に対するSNSや報道機関の評判や報じ方が気になるところなのであろう。人気番組内で朝ドラや大河ドラマの番組宣伝的な時間が増えているように感じられるのもNHKの低下する視聴率への危機感を表しているように思われる。

朝ドラの視聴率維持が受信料徴収方式維持の最後の手段となっているのではなかろうか。だとすると直近の状況は極めて厳しいと言わざるとえない。

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