人権意識に反すればタレントの海外進出は難しい
さらにこの一件にちゃんと向き合わなければ、今後ジャニーズ事務所の海外展開は絶望的となる。昨年10月には7人組のTravis Japanがデビューしたが、このグループは当初から海外展開をしている。海外のレーベルと契約し、全編英語曲で、しかもジャニーズが熱心に取り組んでこなかったストリーミングサービスへの配信もしている。K-POPからずいぶん遅れたが、コンテンツのグローバル化が当然となった時代に、やっとジャニーズも海外展開を始めたばかりだった。
しかしBBCがここまで報道し、それに対処しないのであれば海外進出の道はほぼ閉ざされる。21世紀に入ってから、欧米ではカトリック教会の聖職者による性的虐待が相次いで発覚し、2012年にはイギリスの人気司会者ジミー・サビルの200件以上の性的虐待事件が死後に発覚したこともあった。欧米の先進国において、未成年者の人権を守ろうとする意識は日本と比較できないほど高い。よって、ジャニーズ事務所がこの件をスルーすることとは、海外市場をすべて失うことにつながる。
こうした状況のなかで、ジャニーズ事務所は昨年夏のBBCの取材に対して「2023年には新体制の発表と導入を予定しております」と回答するのが精いっぱいだった。
ジャニー喜多川という「創業者」にして「負の遺産」
それは今年の元旦に日経新聞へ全面広告を掲載した内容でもある。そこでは、藤島ジュリー社長の署名で「2023年“私たち”の約束」が4つ並べられている。これらはいまもジャニーズ事務所のオフィシャルサイトに掲載されており、そのうちのひとつはコンプライアンスについてだ。
企業が求められる責任を果たす
独立性・中立性のある経営監視・監督体制の整備
経営者・スタッフ・タレントの聖域なき法令遵守徹底
透明性の高い企業としてのルール策定・研修実施等
ジャニーズ事務所「明日の“私たち”へ。一歩づつ。」(2023年4月6日確認)
この声明が発表されて4カ月が経つが、現状「企業が求められる責任」はなにひとつ果たされていない。ジャニーズ事務所は、ジャニー喜多川氏が遺していった巨大な負の遺産の前で身動きが取れなくなっている。
つまり──。
“ジャニー喜多川”にとどまるも地獄、“ジャニー喜多川”から離れるも地獄──そんな大きなブーメランが返ってきている。