では、浜教授は今回のユーロ危機をどうやって予測することができたのだろう。また、ファンドマネジャーたちの思考法との違いとは何だったのか。その答えのキーワードとして、浜教授はイギリスのウインストン・チャーチル元首相が語った「過去を遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう」という言葉を引き合いにしながら次のように話す。
「グローバル化が進んだ現在は『融合と連鎖の力学』が働く時代です。誰かがくしゃみをすれば、皆が風邪をひいてしまう。もはやアメリカと中国のG2だけを見ていれば、すべて事が済む時代ではありません。過去と比べて現在がいかに違うのかを認識し、未来を展望することがきわめて重要になっているのです」
浜教授は東西ドイツの統合を契機に誕生したユーロの歴史、そのなかでも拙速に決められたユーロを支える構造を特に問題視する。金融政策はECB(欧州中央銀行)が行う一方で、財政政策についてはギリシャをはじめユーロを導入している16カ国それぞれに委ねられている。ギリシャが財政再建に手をこまねいていると、そのツケは財政が比較的健全なドイツに回ってくる。
「つまり不ぞろいなパーツでつくったロボットのようなもの。しかも、個々のパーツが独自に動くロボットの特質を持っています。ユーロ導入国やIMF(国際通貨基金)による救済パッケージが決まったものの、単なるしのぎの対応でしかない。今後、ユーロ解体のシナリオは現実味を増してくるでしょう」
ことほどさように浜教授のユーロの先行きに対する見方は厳しく、まったくブレない。そうしたエコノミストとしての信念を支える思考の“必要条件”として浜教授は「独善的である」「懐疑的である」「執念深い」の3つを挙げる。独善的とは常に自分が正しいと思うこと。懐疑的とは何か反対意見が出てきても、それが間違いではないかと疑うこと。そして、自分の敗北を認めないという執念深さを持つことを大切にする。
しかし、それでは偏狭な考え方に陥ってしまう危険性がある。そこで浜教授は「真理追究に熱き情熱を持つ」「謙虚な素直さを兼ね備える」という2つを“十分条件”として加える。マイナス情報であっても新しい事実が出てくれば、改めて真理を追究し直す。そして、新たに見出された真理を謙虚な姿勢で自説のなかに受け入れていく。これらのバランスをとることで浜教授は、新古典派経済学を代表するアルフレッド・マーシャルが述べた「クールヘッドとウオームハート」を実現させているのだろう。
「複雑なグローバル化時代を生き抜いていくためには、ビジネスマンも謎解きの名探偵でなくてはなりません。洪水のように押し寄せる大量の情報に圧倒されて思考を停止していてはダメ。できるかぎり情報を集めて、そこから真理を見つけるよう、考え続けることが重要です」と浜教授は強調する。
1.遠い過去を振り返って未来を見渡す
2.独善的、懐疑的かつ執念深いこと
3.熱き情熱と謙虚な素直さを忘れずに
※すべて雑誌掲載当時