マイクロソフトエクスチェンジは企業向けサーバーに標準として組み込まれ、すべての従業員の携帯電話とのあいだで確実にメールの送受信ができるようになっていた。

iPhoneがマイクロソフトエクスチェンジをサポートしたことにより、突然それまでの均衡が破れた。

いまや企業が従業員に持たせる電話をiPhoneに替えることを妨げるものはなくなった。RIMはかつて企業向けの重要なセールスポイントであった信頼性と安全性において、もはや第一線にはいないことが調査でも示された。

2008年11月、RIMはかつての地位を失ったことを認めざるを得なかった。

ブラックベリーのキーボードは最後の砦

社内には大きな抵抗があったが、タッチスクリーンをはじめて採用したブラックベリー・ストームを発表した。それまで、ブラックベリーのキーボードは最後の砦だった。

キーボードはどうしても必要で、物理ボタンがないという考えを受け入れられないユーザーが何百万もいた。ストームにキーボードをつけなかったことにより、ブラックベリーはアップルの縄張りに戦いを移した。そこは、とうてい太刀打ちできない場所だった。

ニューヨーク・タイムズ紙のテクノロジー系コラムニストであるデヴィッド・ポーグは、誤作動が多く、使いづらいRIMの機器を「いらついて頭がおかしくなりそう」だと言った。ストームはRIMにとって大失敗だった。

「どういうわけでこのような製品が市場に出てきたのだろうか?」とポーグは述べている。「関係者はみなあまりに恐ろしくて、緊急ブレーキを引けなかったのだろうか」

その通りだった。バルシリーの攻撃的な姿勢は、電話会社や大企業と大きな取引をするときは役立ったが、RIMの社員は、社内で彼の考えに逆らうのは危険であることを身をもって知っていた。

バルシリーとラザリディスが公然とライバルの製品を無視し続けていたため、社員たちはあまりに恐ろしくて、何も気づいていない権力者たちに真実を伝えることができなかった。

アップルは脅威ではないと思っていたが…

だが、RIMの取締役会はついに行動を起こし、いかにアップルを撃退するかについて助言をもらうために、外部のコンサルタントを招いた。バルシリーはコンサルタントと取締役たちの前で怒りを爆発させた。「わたしの対応は攻撃的だったのだろうか?」とのちに述べている。

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「そうだったのだろう。だが、倒産するよりはマシだ」

取締役会は、RIMがトップの座にあったときはバルシリーの振る舞いに寛容だったが、さすがにどうにかするべきときが来たと決断した。「わたしは取締役会に負けようとしていた。それはわかっていた」とバルシリーは言った。

ビル・ゲイツは、早いうちに脅威を感じ、攻撃的な対応によってネットスケープを食い止めた。RIMは、アップルがすでに重要な領域を占領していることを潔く認めなかったせいで、みずからを見当違いの場所に導いてしまった。