戦いに勝ち続けていても、形勢はゆっくりと変わることがある。初代iPhoneが発売されてから2年、ブラックベリー・カーブは新しいiPhone3GSを上回り、アメリカのスマートフォンの売り上げの首位を維持していた。
ブラックベリーの他の三機種もトップテン内にあった。RIMは、まだアメリカのスマートフォン市場の55パーセントの占有率を保っていた。
第1四半期の売り上げは53パーセントの伸び、出荷台数780万台、アクティブユーザーは世界に2850万人。調整後利益はウォールストリートの予測を4セント上回った。こうした数字を見ると、アップルはRIMにとって脅威ではない、とラザリディスとバルシリーがひたすら信じたのも理解できる。
通信速度の発達に対応できなかったRIM
ところが、アップルは、たったひとつの機種ですぐにこれに追いついた。その秋、iPhoneの売り上げが740万台を記録し、四半期の売り上げが過去最高になったのだ。
世界は変化していた。業界内の人にも、業界外の人にも、仕事用の電話と個人用の電話との境目が消えつつあることが明らかになってきた。やがてみんな一台だけを持ち歩いて、それですべてをこなすようになる。RIMは古いモデルにとらわれ、いくつものポジションを一度に守り続けようとして努力を分散させてしまった。
iPhoneがブラックベリーに勝利した要因はいくつも挙げられるが、もっとも重要なのは、RIMがモバイルデータ通信の速度の発達に適応できなかった点だ。
ブラックベリーはEメール機能にはすぐれていたし、多くのユーザーがメッセージ送受信にキーボードやソフトウェアを使うのを好んだ。問題は、モバイルデータ通信の速度が上がれば、電話でウェブを閲覧するのが苦にならなくなることだ。
フェイスブックに新しくプロフィール写真をアップロードしたり、ウィキペディアの記事を調べたり、グーグルマップでホテルを見つけたりするには、タッチスクリーンとさまざまなアプリのおかげで、iPhoneのほうがずっと向いていた。
2008年3月に行われたスマートフォン利用者に関する調査では、ブラックベリーの利用者は、Eメールやメッセージの送受信ができることに満足し、インターネットの速さと質を経験するために、つねに機器を鳴らし続けた。
一方、iPhoneの利用者は、音楽、Eメール、地図、天気予報、メッセージ、電話など、使いたいものがすべて境目なく統合されていることに満足感を得ていた。iPhoneがあればすべて手のひらのうえで使えるからだ。
企業向け市場からシェアを奪われる
2010年には、RIMは危機に瀕していた。消費者市場で成長することができず、アップルがいまや、iPhone、さらに新しいタブレット機器iPadを自分たちの領域である企業向け市場に推し進めてきた。