アプリもGPSもタッチ画面もない

16和音のメロディーが届けた、新着メッセージ。心を躍らせ、小さなディスプレイで夢中になって返信をつづる。切手サイズの写メを送り合えば、粗い画像の向こう側にたしかなつながりを感じられた――。

1990年代から2000年代にかけて花開いた「ガラケー」文化がいま、アメリカで一部の若者の心をわしづかみにしている。

ガラケー
写真=iStock.com/Yellow Dog Productions
※写真はイメージです

彼らが使う携帯には、アプリもGPSもタッチ画面もない。数字の並ぶキーパッドと、10文字も打てば折り返してしまう小さなディスプレイがすべてだ。必要なときには最小限の通話を行い、お世辞にも高画素とは言えないカメラで友人とのひとときを記念に収める。

かれる理由はさまざまだ。ある青年は未知のガジェットとして新鮮味を見いだし、通知の嵐に辟易へきえきしたある少女はガラケーに乗り換えて自分らしい時間を取り戻した。

不便なガジェットをあえて相棒に選ぶことで、外出すればリアルな街とのつながりが感じられ、自分自身の脳を使ってものを考えるようになったという声もある。

20年前の若者が未来を感じた折りたたみ式の電話は、2023年になっても同じように若者たちを魅了しているようだ。

こうした旧式携帯は、アメリカではフリップフォン(折りたたみ電話)などと呼ばれる。狭義のガラケーは日本仕様の製品を指すが、本稿では便宜上、アメリカのものも含めてガラケーと表記している。