日産が挽回を狙う機会はまだある

しかし、その戦略は十分な成果につながらなかった。経済成長に伴って中国などの新興国では、トヨタの“レクサス”のような高価格帯の商品への需要が高まった。また、2015年には独フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン不正問題が発覚した。それを一つのきっかけに、世界的にハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、さらにはEVなど電動車へのシフトが急加速した。そうした変化に日産は出遅れてしまった。

写真=iStock.com/shaunl
※写真はイメージです

ゴーンが去って以降、日産は電動化技術という強みの強化の重要性を再認識したといえる。日産が“アリア”、“サクラ”と新しいEVを投入し、稼ぎ頭となる商品の育成に取り組み始めたことはそれを示唆する。S&Pが信用力の見通しを安定的とした背景の一つとして、事業環境の厳しさが高まってはいるものの、経営陣の戦略次第では日産がEV分野で挽回を狙う機会はあるとの見方がある。

EV事業の数値目標を引き上げた危機感

今後、日産は研究開発体制を強化し、最新の電動化技術の実用を急ぐことが求められる。2月27日、日産が長期の事業戦略をさらに強化すると発表したのは、そうした危機感の表れだろう。

2030年度、ニッサンとインフィニティの両ブランド全体での電動車割合を、従来の50%から55%に引き上げられた。その中で、2026年度に欧州での電動車の販売比率を75%から98%に引き上げようとしている。わが国での電動車比率も引き上げた。

中国に関しては2024年に中国市場に特化したEVを投入し、米国に関しては2030年度までに販売の40%を電動車にする方針を維持した。全体として、主要先進国での電動化の加速が重視されている。ということは、日産は低価格帯の量販車よりも、中・高価格帯のセグメントでEVブランドを強化し、収益力の回復を急ごうとしている。

成長戦略として中長期的に需要の増加が期待される分野での事業運営体制を強化することは適切だ。ただ、成果を上げることは容易なことではない。特に、欧州市場ではフォルクスワーゲンなどが急速に電動車の生産体制を強化している。中国のEVメーカーは共産党政権の支援を取り付けつつ、価格競争力を高めている。