息子と両親
馬場さんが離婚したとき、息子はちょうど中学に上がる直前だった。母子家庭になった馬場さんは、自分の実家から車で1時間ほどのところで暮らし始めた。
息子が小さい頃は、自分の仕事が朝早かったり、夜遅かったりするときは、実家の両親に預けて仕事に出かけていた。特に母親は孫がかわいくて仕方がない様子で、一緒に買い物や旅行に行った。
保育園に入ると、夜20時まで預けることも珍しくなくなった。20時ギリギリに迎えに行くと、帰り支度を済ませた保育士の先生に、「もう少し早くお迎えに来てください」と何度も注意を受けた。
「元夫には世話になりたくなかったし、両親は車に乗れません。息子が5歳の頃、すでに父は81歳、母は73歳で、高齢のためお迎えは難しく、20時を超えてしまうときは、仲の良いママ友に息子も一緒に連れて帰ってもらっていました」
そんな息子は、おとなしい子に成長した。
「平和主義で、人の悪口を言わない男の子です。元夫に似ていて、ADHDと診断されました。依頼されたことは忘れがち。スイッチが入らないと勉強はしませんが、スイッチが入ると朝まで勉強して、90点台を取ります。自己管理が苦手で、朝起きられません」
離婚後の馬場さんは、自分と息子の生活だけでも精いっぱいだったが、時々様子を見に実家に帰ると、その度に両親に異変を感じることが増えていく。
母親は、「夜中にお父さんに、『胸が苦しい』と言って起こされる」と馬場さんに訴え、イライラしていることが増えたほか、料理をしていて鍋を焦がすことや、同じものを買ってきてしまうことが頻発していた。
馬場さんは、包括支援センターに相談し、ケアマネジャーについてもらう。介護認定を受けると、88歳の父親は要介護1、80歳の母親は要支援2。先行して父親のデイサービスを契約したが、まだ自分で電話ができてしまう父親は、自ら「行かない」と電話してしまっていた。
2013年。息子が中学校を卒業すると、馬場さんは息子と相談し、実家で両親と同居することを決めた。(以下、後編へ続く)