長きにわたる迷走

一見、万事順調といえる状況だったが、2015年ごろ、定番のブラックサンダーの売り上げが落ち着いた。同時に、迷走といえる状態が始まる。

「ブラックサンダーの売り上げを補うために『もっと売れる新商品を』と頭を絞って開発して発売する。ですが、ヒットしない。この前の新商品は6カ月売れ続けたのに、次に出した新商品は3カ月で売れなくなる。次の商品は2カ月、1カ月……となる」

だが、定番商品をカバーするような大ヒット商品が出ることはなかった。

新商品の寿命が短くなるに連れ、次の商品を考える開発期間も短くなっていく。

通常8カ月~1年ほど開発に時間をかけていたが、最終的には4~5カ月で新商品を出すハイペースになった。社員も消耗していった。

もともと「ブラックサンダー」という商品は底力のあるブランド。

しかし良かれと思って出し続けた派生商品を次々に乱発することにより、顧客を混乱させ、ブランドのイメージを毀損きそんしていたのだ。

「短い開発期間ではいい商品が生まれるわけもないですよね。あの時は、『ブラックサンダーらしさ』を懸命に追求していましたが、お客さまからどう見えるか、という意識がまったく欠けていた。目先を変えただけでのメーカー本位な派生商品を出すことはブランドの足を引っ張る行為でしかなかった」と河合氏は反省を込めて述懐する。

ブラックサンダーを改めて見つめなおす

派生商品を出すが売れない。さらに定番商品の足を引っ張る。それでも次の新商品を出さざるを得ない。だがヒットしない……。

そんな出口が見えない状態は2015年から5年間ほど続いたという。

2018年に河合氏は社長に就任し、商品企画から距離を置き、権限をマーケティングチームに委譲した。

しかしそれでも迷走は続き、再び陣頭指揮をとることにしたという。

そこで、着手したのがブラックサンダーのリニューアルとデザインの変更だ。

「開発当時から『ザクザク食感』がブラックサンダーの特徴。お客さまも知っているという社員の思い込みがあった。しかしブラックサンダーを知らないお客さまには当然届かない。特徴をきちんと伝える、こうした当たり前のことを、丁寧にやろうと考えた」

撮影=プレジデントオンライン編集部
以前のブラックサンダー(下)とリニューアル後の同品。「ザクザク」という言葉が入っている

さらに、打開策を求める中で、業界を問わずさまざまな人と出会った。その中で、日本マクドナルドやワールドなどで活躍したマーケターの足立光氏と話す機会を得た。

迷う河合氏に足立氏は「お客さまが求めているのは定番の味。定番が会社の利益源だ。定番こそ売らなければ」というアドバイスを送った。

これが天啓ともいえるひと言だった。「本当にその通りだと、腑に落ちる思いがした」。