プレミアムという「第2の定番」

「第2の定番」の開発にも着手した。

これまで出してきた派生商品ではなく、それ一つで売り上げを創出する新たな定番商品を生み出すことで、「ブラックサンダーブランド」を底上げし、客層の裾野を広げたいと考えたのだ。

実は河合氏の中には、「ブラックサンダーに並ぶ定番を作らなければ」という思いはこれまでもあったという。しかし派生商品を自転車操業的に発売してきた時代、その余力がなかったというのが実際のところだった。

考え出したのが、プレミアム商品だった。派生ではなく、定番のブラックサンダーに肩を並べ、将来にわたってブランドを背負える商品だ。ワンランク上の上質な素材を使うが、長く食べ続けてもらうために老若男女に好かれるような、本質的なおいしさを求めたいと考えた。

開発にあたっては、自分たちが良いと思う商品ではなく、お客さんが欲しいと思うモノを考えようと開発チームに伝えた。

「プレミアムと言うからには、まず感動するほどおいしくなければならない。それでいて、毎日食べられるほど、安心できる味であることも重要。そんな確信できる味は何かと、お客さまになりきって探し求めた」

いろいろな味を検討する中で、一同が「これなら感動、安心できる味」と納得したのが、お菓子の定番であるバター味であり、チョコ市場では定番のミルクチョコレートだった。

とはいえ、そう簡単に定番商品ができるわけではない。特にバターについては、発売5カ月前に商品企画を一度白紙にするほど悩みぬいた。

チームでは、バターが魅力の商品をかき集めて片っ端から食したという。

「バターの何がおいしいのか。それがお客さまが感動してくれる商品なのか」を、徹底的に追求して商品の構成を再検討したのだ。素材選び、配合ともにこだわり、試作を繰り返した。

「ブランドは会社ではなく、お客さまのものである」

2年にわたる苦労の結果できあがったのが、「ブラックサンダー 至福のバター」だ。

「至福のバター」
画像提供=有楽製菓
「至福のバター」

「『至福のバター』は、味もデザインも一見するとブラックサンダーらしくない。だから商品としては自信がありつつも、不安もいっぱいだった」

だが、2020年9月に発売されるや否や、大ヒットを記録。発売1カ月で予測値の1.4倍にあたる約390万本が売れた。

ブラックサンダーらしいザクザク感がありつつも、噛めば噛むほどミルクチョコの下にあるバターの濃厚さが口の中に広がる。これは他の商品にない味わいといえる。ただのバター味ではなく「至福の」をつけた意味がよくわかる。

そして同商品は一時的な売り上げに終わらず通年で売れ続け、新商品が短い期間で休売してしまう苦しい悪循環を断ち切ることもできた。

文字通り「ブラックサンダー」を背負って立つ河合社長
文字通り「ブラックサンダー」を背負って立つ河合社長(撮影=プレジデントオンライン編集部)

さらに、店頭では定番のブラックサンダーと並んで置かれることで、相乗効果もあった。

これまでの30~40代の男性というコアファン層を満足させながら、女性客という新しい客層も開拓する、新しいブランドの姿がここに誕生したのだ。

「思えば、新しい味を出し続けていた時期はブランドをただ浪費していました。そうではなく、ブランドの価値を上げる活動をしなければらなかった」

2017年7月期では74億円ほどだったブラックサンダーブランドの売り上げは、昨期に105億円超となり、過去最高を記録した。

「ブランドはお客さまのものである。購入してくれるお客さまがいるからこそ、育つことができる。このことを忘れてはいけない。それが、私が得た教訓ですね」

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