基礎代謝がもっとも低下した人は、もっとも運動した人

結果は、「厳格なカロリー制限+激しい運動」をやめてから、たいていの競技者は、体重が増え、基礎代謝も上昇していた。基礎代謝の上昇した程度は、体重の重い人は軽い人よりも顕著であった。だが、彼らの基礎代謝は、番組に参加する前にくらべ、平均500kcal/日も低かった。

その翌年追跡調査が行われ、こんな結論が得られた。競技者の体重の増加について、運動した人は運動しなかった人にくらべ、やや少なかった。たとえば、ほぼ毎日80分間運動した人は、あまり運動しなかった人にくらべ、体重増加は2~3kg少なかった。要するに、運動は体重にそれほど影響しないという結論になる。しかも、運動しても基礎代謝は上昇しなかった。じつに、基礎代謝が相対的に最も低下したのは、最も運動した人なのである。

この結果に面食らわない人はいないだろう。ホール博士もひどく困惑した。困惑しないはずがない。運動する理由は筋肉をつけて基礎代謝を高めるためとされているが、実際には運動すると基礎代謝が低下するというのだから。運動する意味はどこにあるのか、ということになる。

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運動量と消費エネルギーはどう関係しているのか

【神話】
運動によって基礎代謝が上がる

前項で運動すると基礎代謝が低下したという事実を知っても、まだ信じられないあなた。運動によって筋肉量を増やせば、基礎代謝が上がり、体重が減ると信じるからこそ、家の周りを走り、ジムでトレッドミルに乗り、筋トレに励むのではなかったか。運動によって基礎代謝が上がるはずと皆が信じてきたが、これに疑問符がついている。

【科学的検証】
ウソである

ヒトの代謝について、これまでの考え方を抜本的に考え直さねばならなくなったようである。2012年のこと、新しいアイディアが提案された。これは、ニューヨークにあるハンターカレッジの人類学者ハーマン・ポンツァー教授(現在、デューク大学)のグループが発表したもので、体を動かしても動かさなくても、消費エネルギーの総量は変わらない、という。

今、このアイディアは、世界の代謝研究に強い影響を及ぼし始めている(*5)。ポンツァー教授のグループが、どのようにしてこのアイディアに到達したかというと、ハヅァ族の生活様式、基礎代謝量、身体活動、消費エネルギーを調査して得た結果からである(*6)

(*5)Pontzer H et al. Hunter-Gatherer Energetics and Human Obesity. PLoS ONE 2012. 7 (7): e40503.PMID: 22848382
(*6)Pontzer H et al. Constrained Total Energy Expenditure and Metabolic Adaptation to Physical Activity in Adult Humans. Curr Biol. 2016 February 8; 26(3): 410–417 PMID: 26832439