極端にカロリーを落とすと激しい運動は逆効果に

ここまで「The Biggest Loser」の物語を紹介してきた。この物語から体重をコントロールしようと試みる私たちは、何を学ぶのか。最も重要な発見は、体重を急激に(つまり短期間に大幅に)減少させる戦略は、成功するどころか、かえって裏目に出るということ。なぜならば、ハヅァ族の人々の背丈を伸ばさないことによって消費エネルギーを抑える例からわかるように、この戦略は基礎代謝を私たちの予想以上に低下させるからである。

しかし、体重を徐々に低下させると、基礎代謝の低下はより小さくなる。ふたつめの発見は、「厳格なカロリー制限+激しい運動」によって体重を急激に落とすと、激しい運動は基礎代謝を低下させ、落ちた体重をもとに戻す手助けをすることである。カロリーを極端に落とした場合、激しい運動は逆効果になる。

しかし、運動にはプラスの面もある。ホール博士は、長期にわたるランニングによって体重コントロールを試みる人は、基礎代謝は低下するが、脂肪の蓄積を防ぐ効果がある、と述べている。「The Biggest Loser」の競技者のうち、最もたくさん運動した人は、基礎代謝が最も低下したにもかかわらず、体重の回復の程度は最も低かった。運動によって活動代謝が増えたからである。

それでも運動している人は健康になれる

体重を一定に保つために、私たちはどのように運動すべきか?

NIHで重要な役職にあり、肥満にはとくに詳しいホール博士でさえ、この問いに対し「まだわからない」と答えている。運動は短期間では基礎代謝を高めるが、長期になると基礎代謝を低下させる。それなら、私たちは運動をする必要はないのか? Yes.必要だ。

生田哲『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)
生田哲『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)

私たち人間にとって運動は欠かせない。その根拠は、私たち人間は動物であって植物ではないというアイデンティティにある。運動の効果を具体的に挙げると、ストレスや不安を解消し、過食を防ぐなど、私たちの食欲に影響を及ぼすばかりか、ブドウ糖の筋肉への取り込みを促進し、炎症を抑え、血糖値を安定化させる、脂肪を燃やし、糖尿病を防ぐ。これらの効果により、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞や脳出血などの血管系の病気を防ぐ効果がある。

他にも、夜、熟睡できる、気分がよくなる、自尊心が高まるなど、多くの利点がある。「The Biggest Loser」の競技者は、落とした体重をほぼ取り戻したとはいえ、完全に元に戻ったわけではない。6年後、彼らの体重は番組に参加する前にくらべ、12%低下していた。これは有意な差である。そして最も成功した人は、今も運動している人たちなのである。

【関連記事】
【第1回】「お酒は少量であれば健康に良い」は間違い…最新研究で分かった"お酒と健康"のキビシイ関係
これで私はストレスとは無縁の人生になった…脳科学者・茂木健一郎が続けている「脳にとって最高の運動」
「脳トレはほぼ無意味だった」認知症になっても進行がゆっくりな人が毎日していたこと
「足が太い」と悩む人は勘違いしている…鎌田實「60歳を過ぎたら、メタボ対策は忘れたほうがいい」
妻がうつ病に…「なぜ」という夫に精神科医が「原因を探るのはやめたほうがいい」と諭すワケ