運動量に関わらず消費エネルギー量は一定だった
ハヅァ族は、東アフリカにあるタンザニア北部のサバンナに住む先住民族で、何千年もの間、基本的な生活様式をほとんど変えることなく生きてきた。彼らは車や銃などの助けを借りず、弓、小さな斧、棒を使い狩りをする。今も活発な狩猟採集生活を営むハヅァ族は、食料を得るため、毎日、ランニングを2時間、ウォーキングを数時間行っている世界でも数少ない民族である。
ポンツァー教授のグループがハヅァ族の生活様式、基礎代謝量、身体活動、消費エネルギーを西欧文明社会に住む人々と比較したところ、基礎代謝と活動代謝による消費エネルギーの総量は、あまり体を動かさずに生活している私たちのそれとほぼ同じであった。
驚きの事実が明らかになった。体を動かしても動かさなくても、長期的には同じだけのエネルギーを消費する。「消費エネルギーの総量は一定」という、この事実をどう説明するのか。そこで、こんな仮説が立てられた(*6)。
ハヅァ族は食べ物を捕獲するために、毎日、野原を走り回って大量のエネルギーを消費するが、彼らの体は、この過剰な分を成長など他の生理的な活動を抑えることによって帳尻を合わせている、と(制限的モデル)。身体活動でエネルギーを大量に消費する分を、背丈を伸ばさないことによって抑えているという説明である。これでハヅァ族の人々が細身で引き締まった体つきであること、とりわけ小柄であることも納得できる。
運動が長期にわたれば消費エネルギーが減少する
彼らがジャガイモや獲物を探してどれだけ野原を駆けめぐろうと、毎日の消費エネルギーの総量は一定に保たれる。この考えを「総エネルギー消費量抑制」理論と呼んでいる。運動(身体活動)と総エネルギー消費量の長期にわたる関係は、現段階では明らかになっていない。これまでは加算的モデルが受け入れられ、運動が増えれば、総エネルギー消費量も増えると考えられてきた。
だが、今回、提案された制限的モデルでは、運動が長期にわたって増えれば、他の生理的活動に消費するエネルギーを減少させることで、総エネルギー消費量を一定に保つのである。
「総エネルギー消費量抑制」を踏まえて「The Biggest Loser」の結果を見ていくと、競技者の代謝は狩猟採集者のそれとよく似ていることがわかる。カギは基礎代謝である。「The Biggest Loser」の収録初期のころから彼らの基礎代謝は落ち込んだ。彼らの摂取カロリーが大幅に削減されたとき、飢餓を避けるために、体は消費エネルギーを減らしたのである。数年後、かつての食事に戻っても、基礎代謝は依然として低いままである。これは、私たちの直感と真逆の結論である。
それにもかかわらず、私たちの多くはいまだに運動を続けている。「The Biggest Loser」のデータを新たに分析したホール博士は、こういう。「頻繁に運動すると基礎代謝が低下し、そのままの状態が続きます。すると1日の総エネルギー消費量は抑制されます。それから「The Biggest Loser」のデータは、「総エネルギー消費量の抑制」理論を説明するための好例になっているのです」