第3の条件は「インプレッシブ」であること。「理念を語ることは大事だが、それだけでは受け手である社員たちは納得しない」と語るのは、三菱重工業の大宮英明社長である。たとえば会社の非効率な縦割り体質を変えようと訴える際に盛り込むのが、事業部門間で「給料袋が違っていた」という事例だ。これによって「誰もが問題点をイメージできる」。
論理だけでは相手の心に届かないことがある。だから相手を共感させ、信頼感を醸成するための要素、言い方を換えれば、相手の心に刺さる印象的な言葉が必要だというのである。同様のことを、大八木社長は「純朴」、新浪社長は「共鳴」、クレディセゾンの林野宏社長は「サプライズ」と表現する。
一方、上司にもやるべきことがある。作成途中の指導である。大宮社長が課長時代に実践していたのは、部下に最初に「目次」と呼ぶ構成案を出させること。そこで方向性をチェックしてから、本番の文書づくりをさせたという。
大八木社長の若いころの経験はかなり苛烈だ。真っ赤になるまで英文レターの添削を受けた。エピソードはこうだ。
上司から海外との交渉方針に関する文書を渡されると、1日がかりでこれを翻訳する。和英辞典、英英辞典、英英活用辞典と首っ引きで、単語や文法のみならず、ニュアンスの是非まで調べ抜く。それを社内の英語の達人に見せると、長い場合は3ページにもわたって線で消され、その上に添削文が大書されて戻ってきたものである――。
大八木社長は添削を受けた文書を大切に保存している。
「部下にきちんとした文章を書かせたいと思ったら、叩くという作業も時に必要だ」
機会を逃せば、仕事全体の遅滞を招く。指導のできない者に上司の資格はない。
※すべて雑誌掲載当時