駅員の目の前で線路に降りる人は滅多にいないだろうが、見ていないタイミングで線路に降りて自力で拾っている人は結構いるだろう。線路内に立ち入るのは本当に危険なのでご理解いただきたい。

痴漢トラブル発生、駅員はどうする

鉄道で発生するトラブルにおいて真っ先に想像するのが、痴漢ではないだろうか。

私が勤務していた乗降10万人クラスの駅では、さぞ多くの痴漢対応を経験したのだろうと思われるかもしれないが、滅多になかった。私の勤務駅ではホームに駅員が常駐していないため、痴漢が発生した後、被害者が加害者を改札まで連れて来ないといけない。

写真=iStock.com/Wachiwit
※写真はイメージです

が、被害者が加害者を連れてくるというのはそう簡単なことではない。なんとか改札まで加害者を連れてきて駅員に申告されたとしても基本的に駅員はほぼ何もすることができず、警察を呼ぶしかない。

駅員は痴漢の現場を直接目撃した訳ではないので、加害者と決めつけることはできないからだ。『それでもボクはやってない』という映画が2007年に話題になったように、痴漢冤罪えんざいというものもある。

また、取り調べや裁判の過程では無罪推定の原則(*)がある。加害者とされる人を、有罪と決めつけて対応して冤罪だった場合、「駅員に犯罪者扱いされた」ということでトラブルに発展する可能性がある。

*筆者註:無罪推定の原則……有罪判決を受けるまでは、被疑者や被告人を無罪として扱わなければならないという原則。

痴漢となると、直接現場を目撃するのは難しく、冤罪をでっち上げることもやろうと思えばできるだろう。そのため、駅員ができる対応としては警察を呼ぶこと、警察が到着するまで加害者とされる人が逃げないようにすることだけである。

泣いている女子高生と2人の男性が改札に…

では実際の痴漢対応の流れはどのようなものなのか。私の経験した内容を振り返ってみる。

平日の朝ラッシュ時間帯。特に電車の遅れもなく、このままラッシュが終われば無事に退勤だなと考えていると、泣いている女子高生と共に40代くらいの男性が20代くらいの男性を連れて改札にやって来た。明らかにただならぬ空気だ。

「この人が痴漢をしたそうです」
「だから知らねえって言ってんだろ」

20代の男性が女子高生に痴漢をし、女子高生が助けを求め、40代くらいの男性が加害者とされる人を連れて改札まで来たようだ。しかし加害者とされる男性は否認している。唯一助かったのは、加害者が逃げる様子ではなかったことだ。