『それでもボクはやってない』が上映された頃に、痴漢冤罪の容疑がかけられた場合はどうすべきなのか? というテーマで、よく挙げられた答えは「逃げる」である。当時は「逮捕されたら冤罪であってもそれを証明するのが難しく有罪になってしまうので、逃げた方がマシだ」と言われていた。

最近では逃げるのは良くないという考え方が広まってきたが、それでも痴漢の加害者が逃走したという事件はいまだに聞く。逃げる場合には駅員のいる改札口に来る前にホーム上から線路に立ち入って逃げる場合が大半なので、駅員のもとまで大人しく来た加害者がここに来て逃げようとするということは少ないだろう。

私も何度か痴漢の対応はしたが、加害者が逃げる素振りをしたことは一度もなかった。

駅員は警察に通報することしかできない

まずは同僚の応援を呼び、被害者と加害者とされる人を別室に分ける。同時に警察に通報する。あとは警察官が来るまでの10分程度を逃げられないように待つだけだ。

加害者側も、改札に連れてこられたときは否認していたが、警察を呼んだとなると大人しくなり、ただその場で待っていた。

綿貫渉『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(KADOKAWA)
綿貫渉『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(KADOKAWA)

そして警察官が到着した。警察官が加害者、被害者それぞれから事情を聴取する。ここでも加害者は容疑を否認していた。その後、30分くらい警察官と加害者は話をし続けていたが、結局、加害者は罪を認め、パトカーに乗って警察署に連行されることになった。

この30分間は私も改札での他の乗客の対応をしていたため、警察官と加害者の詳しい話の内容は聞いていない。加害者は見逃してもらえるかもしれないと考えて否認を続けたものの、警察官の追及に負けて自白したのかもしれない。

駅員は、痴漢が発生したと報告があったら警察に通報するしかできない。それ以上でもそれ以下でもない。もちろん冤罪よりも実際に痴漢を行っていた場合の方が多いだろう。ただ、それが現場では分からないのがどうも後味が悪い。

近年ではスマートフォンのアプリを使って痴漢を通報する実験(*)が行われている。痴漢を撲滅するのは大変難しいとは思うが、最新の技術でどうにか減少していってほしいものだ。

*筆者註:痴漢を通報する実験……JR東日本が、車内での痴漢被害をアプリで車掌に通報するシステムを開発している。

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