声だしはNG、太鼓はOK、ビッグフラッグはNG…

こうしたガイドラインに基づきながら、まずは上限5000人、観客同士が一定の距離をとる制限付きで有観客試合を実施してきました。当初は太鼓やフラッグも禁止していましたが、声出し応援はNGだけど、太鼓を叩いてもウイルスは広がらないから、太鼓はOKにする。ゲートフラッグを振るのもOKだけど、何百人もの観客が下にもぐってスタンド全体を覆う「ビッグフラッグ」は感染の恐れがあるからNGとする、といった具合に細かくルールは見直してきました。

先端的なところでは、産業技術総合研究所(産総研)さんの協力を受け、AI(人工知能)付きカメラで5000人規模のマスク着用率を測定する、なんてこともやりました。入場時はほぼ全員がキチンとマスクを着けているのですが、ハーフタイムになると飲んだり食べたりするので15%くらいがマスクを外したり、「あごマスク」になる。そこでハーフタイムに「食べ終わったらキチンとマスクで鼻と口を覆ってください」とアナウンスをすることでマスク着用率を改善していくのです。

レーザーレーダーで会場の人の動きを測定し、どうやったら人と人が近づかない形で入退場できるかを考え、分散入場、分散退場の効果的なやり方が分かったりもしました。

観客が試合後、どこへ向かうのかも追跡した

有観客で試合をするときには「スタジアムで厳しく対策しても、観客が試合後に夜の街に繰り出したら元も子もなくなる」という指摘がありました。そこで携帯電話会社の協力を仰ぎ、個人情報には触れない形でスタジアムを出た人たちがどこへ向かうかGPSを分析して追跡しました。

するとその試合では65%は直接、帰宅していましたが、一定の数の人が一定の時間、繁華街に止まっていました。しかしさらに調べると、繁華街に行くグループの人数が例えば4人ひと組だったとすると、その4人は食事が終わると同じ場所に戻っていた。つまり家族で食事をしていたわけで、専門家チームは「感染対策をした店で家族が食事をするだけなら感染拡大にはつながらない」と判断しました。このようにさまざまな技術を駆使して感染対策を講じていたのです。

すべて試みは、やってみて2週間後にレビューして、不具合があればその都度、直す。これを2年近く繰り返し、うまくいったことについてはこちら側から世の中に「提言」していく。産総研さんはこうした実験と検証で得たエビデンスを論文にして社会の公共財にしてくれています。日本を代表するプロスポーツであるNPBとJリーグが組んだことで、得られる知見の幅や社会へのインパクトが大きくなりました。