10年に一度しか使わなくても、安全には代えられない

彼らは古い車を大切に乗って、そして、部品が切れると販売店に問い合わせます。すると、販売店はトヨタに連絡をする。トヨタは倉庫から金型を探し出して、部品を作りユーザーに提供するのです。

あまりに古い時代の金型はありません。しかし、残っているものも少なくありません。

なかには10年に一度しか使わない金型だってあるでしょう。それでもトヨタは保管しています。昔、売り出した車に乗っているユーザーがいる以上、安全に走ってもらうことが自動車会社としての義務だからです。

金型が変形したり、汚れたりしてしまえば部品を作ることができません。ですから、ことさらにきれいにしておくのです。

こうしたことは報道されたことはありません。それでも彼らはちゃんと保管しています。おそらく、最近、スタートしたばかりの電気自動車(EV)企業では、金型を保管しておくようなことはしないでしょう。何年も取っておいたからといってもうかるわけではないからです。

しかし、ユーザーは儲からないけれど、大切に金型を保管している会社を信頼します。「愛車」に乗りたい人は、そういった会社の車を買うのです。

トヨタは長く仕事をしていきたいと思っているから、アフターサービスに完璧を期すのでしょう。

かつて工場で行われていた「宝物探し」

さて、掃除の話に戻ります。

今はやっていませんが、工場でかつてやっていた「宝物探し」と呼ばれたトレーニングがあります。

トヨタに入社して工場の技術員室に「技術員」として配属された人であれば大多数は経験しているでしょう。技術員とは大卒の社員がやる仕事で、工場における技術的なサポートを行うこと。現場で作業をする作業者を助ける仕事です。

そして、「宝物探し」とは「1本のねじを探してこい」というものでした。

上司は新入社員の技術員に1本のねじを見せます。

「いいか。これと同じねじを探してこい」

新入社員は「なんだ、簡単じゃないか」と思います。

上司は付け加えます。

「ただし。絶対に人に聞いてはいかん。自分の目で見つけろ」

それでも、新入社員は「簡単だ」と思い、工場のなかへ行きます。そこで、愕然とするのです。

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自動車工場で使うねじの種類は10や20ではありません。100や200でもありません。形、長さ、色などが違うから数百種類にもなるのです。それを働いている人に聞かずに、自分の目を頼りに同じ形のねじを探さなくてはなりません。1日では無理です。少なくとも3日から5日はかかります。