最大の目的は「真剣にモノを見る」こと

なぜ、そんな手間のかかるトレーニングをするのか。ねじを探しているうちに新入社員は3つのことを覚えます。

ひとつは工場の配置です。どこにどんな機械が置いてあるのか。近寄ったら危ない場所はどこか。人に案内されているだけではわからない工場のなかの施設の配置がわかるのです。

ふたつめは作業者と話をすること。ねじの場所を聞くことは許されませんが、そこで大勢の作業者に挨拶をして、「新入社員だ」と伝えることができます。ねじを探しながら、自己紹介をしているようなものです。ねじを探すのに、1週間以上もかかったら、かえって名前をおぼえられて得をするかもしれません。

みっつめはいちばん大切です。

「真剣にモノを見る」ことの訓練なのです。ただ見るのと、必死になって、ねじを探すのでは違います。真剣に見つめていると、工場の機械の配置、作業者の手の動かし方、やりにくい作業をやっていないかどうかがわかってきます。

そのために、「宝物探し」研修をやるのです。

「誰かが交換するだろう」という考えはない

繰り返しますが、わたしはこれまでに100回以上もトヨタの工場を見学しています。一度の見学で2時間はかかります。それでも内部の様子に詳しいとは思っていません。まして、1本のねじを探すなんてことはできないと思います。

そして、宝物探し研修を聞いた時、納得したことがありました。これまで、トヨタの工場を見学して、一度たりとも蛍光灯が切れているのを見たことがないのです。

自動車工場はひとつの建屋で数百人が働いています。照明の数も相当なものです。最近はLEDになりましたから照明の寿命は長くなっています。それでも広い工場ですから、一灯くらい切れていいはずです。しかし、たったの一度も、天井灯が切れているのを見たことがないのです。

ある時、たずねてみました。答えはこうでした。

「朝、来た時に照明をつける。ひとつでも切れていたら交換する。それだけのこと」

確かにその通りなんです。誰でも、どこの会社でもできることなのです。しかし、「誰かが交換するだろう」と考えて、自分は蛍光灯を換えない。

それが普通の会社です。トヨタはそんなことはしません。見つけた人がその場で、その瞬間に交換する。いちばんシンプルな解決法です。