コロナ禍では消費者が外出の自粛を強いられ、外食店は客席の閉鎖や時短営業を求められた。そんな中で「外食は店の中」という常識を覆した業態が業績を伸ばした。振り返れば1971年に東京・銀座で開業したマクドナルドの国内1号店はテークアウト専門だった。日本KFCホールディングスの「ケンタッキーフライドチキン」などマクドナルドと同様にコロナ禍で強さを見せた業態も、やはりテークアウトで強みを発揮していた。
コロナ禍を予期していたかのような店舗改革
マクドナルドを一強たらしめた要因は、コロナ禍前から進めていた店舗改革だ。スマートフォンで事前に注文と決済を済ませられる「モバイルオーダー」の試験導入を19年に始め、20年1月に全国展開。まるでコロナ禍の到来を予期していたかのようなタイミングだった。
デジタルツールの導入にとどまらず、厨房機器やカウンターなどハードの整備、クルー(従業員)の教育などの改革も進めていたことが功を奏した。モバイルオーダーを導入すると、店舗のカウンターで対応できる数を超えて注文が急増することがある。マクドナルドは厨房の負荷が高まることを見越して、商品の製造能力を2倍にする新型キッチンを導入していた。さらに注文カウンターの隣に受け渡し専用のカウンターを設け、店内のオペレーションをスムーズにした。
デリバリーでもマクドナルドの地力が表れた。コロナ禍ではデリバリーアプリの配達員たちがマクドナルド付近で待機する姿が目立った。頻繁に注文が入る上、店舗数が多いため配達先への距離が短くて済み、配達効率が高かったからだ。店が多くの注文をさばくオペレーション能力を持っていることが前提となっている。
店舗改革は「完成形から見て5合目」
ただ、課題もありそうだ。現在のマクドナルドの店内は、カウンターで注文する人、モバイルオーダーで注文して受け取りを待つ人、商品を待つデリバリーの配達員らが入り乱れ、「カオスな雰囲気になっている」(日本マクドナルド関係者)。SNS(交流サイト)には「マクドナルド」と「戦場」を結び付けた投稿が散見される。混雑時のキッチンの様子を見た来店客による書き込みとみられる。
消費者からの支持の裏返しではあるが、このまま注文の増加が進んで現場の限界を超えてしまえば、サービス品質の低下を招きかねない。日本マクドナルドHDで副社長兼COO(最高執行責任者)を務めていた下平篤雄元氏(22年4月に逝去)は『日経ビジネス』の取材に対し、DX(デジタル変革)や店舗改革は「完成形から見て5合目」と語っていた。残りの変革を、手綱を緩めずに進めていかなければならない。