キャバクラに行っても相手にされない
「いま歌舞伎町はホストがすごいかもしれないけど、私の中ではホストとヤクザって真逆。本当に逆。女が男にお金を払う世界で単価も桁違いだし、女を色恋でだまして金を巻き上げるホストはどうしても好きになれない。
同じ女として、ホストの彼女って思い込めるのがすごいなって。私はすごく現実的なのでホストにハマる女の子ってすごく単純だなって思う。ヤクザは結局、義理と人情がある。ホストは嘘で固めて女からお金をとって、本当に真逆なの」
ママの携帯電話が鳴った。ヤクザからのようだ。「OK、大丈夫。8人いけるよ!」とうれしそうに言っている。どうも8人の団体が来店するようだ。
ママに「歌舞伎町の貧困女子の本を書いている」ことを伝えると、歌舞伎町に住んでいるお店のアルバイトの子を呼んでくれるという。そのアルバイト女性はヤクザの妻で、とにかくお金がなくて困っているという。
「いまの若いキャバ嬢にとっては、もうヤクザは魅力的な存在ではないから。キャバクラでいちばんモテるのって若くて金持っている人間。ヤクザはもう若くない。使えるお金もない。キャバクラでは通用しなくなっている」
「仕事して刑務所に入られても困るから…」
元ライターがそう語る最中に、勢いよく扉が開いた。「おう、ママ」「おう、来たぞ」「おう」と、続々とヤクザが入ってくる。いかにもヤクザという人から、紳士っぽい人まで十人十色だ。
年齢は最も若くて40代後半、50代、おそらく60代もいる。我々はヤクザがキャバクラで通用しない話を即座に中止し、全員が席に座れるようにカウンターの端に移動した。
店はヤクザで超満員御礼状態になってしまった。
先客ヤクザと団体ヤクザは初対面のようで名刺交換をしている。まるでビジネスマンのようだ。名刺交換しながら共通の知人ヤクザの話をしている。交換される名刺は草書体で組織名と役職が書かれていた。筆者は声をかけられぬように気配を消し、黙々とママの紹介女性を待った。
しばらくして名越宏美(仮名、30歳)がやって来た。
歌舞伎町在住なので自宅が徒歩3分圏内らしい。取材は二つ返事でOK。ヤクザで超満員御礼のなか、カウンターの隅で話を聞くことにした。
名越宏美はヤクザ客の半分くらいは知り合いのようで、ヤクザたちとハイタッチで挨拶してから、筆者の隣に座った。
「旦那はヤクザです。ヤクザはヤクザで頑張っていると思うのでいいけど、シノギがないので仕事も収入もない。私が働いて旦那が育児みたいな感じ。子どもがパパ、パパって懐いているし、仕事して刑務所に入られても困る。だから、なんの期待もしていないかな」