安定的な収益源として貨物事業の構造改革に取り組む
ANAHDが10年来進めてきたプロジェクトも大転換した。「キャッシュを稼ぐために貨物専用機を成田空港に集中させる」。ANAカーゴ社長の外山俊明は21年1月、こんな決断をした。
ANAHDはそれまで、沖縄県と組んで「沖縄国際物流ハブ」構想に取り組んできた。
片道数時間圏内に国内外の主要都市を多く抱える那覇に貨物専用機を配備し、深夜出発・早朝到着の貨物便を設定して急送ニーズを取り込む算段だった。
実際、那覇の貨物取扱量はコロナ禍までの約10年間で120倍にまで増えていた。その一方で、国内外の空港で深夜発・早朝着の便が増え、相対的な競争力は低下していた。それであれば、せっかくの貨物専用機は需要旺盛な成田に集約させた方がいい。幸いにして、インバウンド需要が拡大していたコロナ禍前は、那覇を発着する国際線の便がLCCを中心に増えていた。沖縄国際物流ハブ構想は、ANAの国内線網、そしてLCCを含む海外航空会社の輸送力を組み合わせる形で再構築することに決めた。
国際航空貨物の市場はボラティリティー(変動しやすさ)が非常に高い。旅客は一定距離を超えればほぼ確実に航空便を選ぶが、貨物は海運や鉄道といった別の輸送手段との競争にさらされており、運賃の押し下げ圧力が非常に強い。現にコロナ禍前は米中貿易摩擦の影響で市場が冷え込み、収益性が悪化。19年にANAカーゴが導入した777Fはお荷物扱いされていた。
コロナ禍に端を発した海運の混乱は長期化するとの見方が大勢だ。国をまたがる分業が進んで複雑化したサプライチェーンで世界に商品を届ける状況は変わらず、世界を行き来する貨物の量も増加の一途をたどるだろう。ただ、ここまでの運賃高騰という「お祭り騒ぎ」はいつか終わる。ANAHDは市況が良好なうちに構造改革を進め、安定的な収益源として貨物事業の構造をつくり直さねばならない。旅客事業の浮沈に必ずしも連動しない貨物事業を強化することは、コロナ禍のようなリスクへの耐性がつくことも意味する。
最短5、6時間で生鮮品を運ぶ「日本産直空輸」も始動
22年7月、食品スーパーの東急ストア(東京・目黒)が運営する都内の店舗をのぞくと、富山県の港に揚がった白エビや北海道で収穫されたとうもろこしなどが採れたての状態で並んでいた。
新鮮な食材の輸送をコーディネートしたのは「日本産直空輸」。
ANAグループの社員提案制度から生まれたスタートアップ企業だ。国内線旅客便の貨物スペースを活用することで、通常は数日かかる産地から店舗への生鮮品の輸送を最短5~6時間で実現する。
21年8月にはANAカーゴが中堅物流会社の丸和運輸機関と業務提携した。食品スーパーなどに向けた生鮮品の産地直送に航空輸送を活用することなどを目指す。