このなかで氏は、同社計画の中核を担うラプター・エンジンの製造ペースを向上しなければ、スペースXは「まぎれもない倒産のリスクに直面する」と明言している。これ以前にはテスラでも生産ペースが向上せず、野外に巨大なテントを張って生産ラインとした苦い過去がある。自身も机の下で寝泊まりしながら対応に当たったとの逸話はあまりにも有名だ。
こうした危機を経験しているマスク氏だけに、資金繰りへの警戒感は強い。Twitter買収と同時に繰り出した収益改善策も、ある意味では過去の反省に立った合理的な判断だと捉えることができる。
だが、有償サブスクリプション「Twitter Blue」の促進を中核に据えたこの戦略は、少なくとも現在のところ混乱と不信を招くに終始している。
偽アカウントに公式マークが付与されるなど、プラットフォームの信頼性を揺るがす失態が短期間に相次いだ。ブランドイメージの毀損につながりかねないとして、広告主たちはこぞって広告の出稿を引き上げはじめている。
売り上げ至上主義への転換
さらに、買収完了からわずか1週間後の時点ですでに、全従業員の約半数にあたる3700人のレイオフが実施された。将来的には全従業員数の4分の3に達するともいう予測に社内は震え、米サンフランシスコ・マーケットストリートに面した本社内には不安と怒りが渦巻く。
マスク氏は初出社時、「よく考えよう」という意味の「Let that sink in」を「シンクを部屋のなかに入れてあげよう」と誤解釈したネット上のジョークになぞらえ、洗面台をひっさげて本社のドアをくぐった。陽気なジョークを飛ばす氏に対し、従業員の視線は冷たい。
ユーザー側が離れる懸念も出てきた。有料ユーザーのツイートを優先表示する姿勢まで打ち出したマスク体制の売り上げ至上主義に、これまで自由な発言の場を愛してきた人々がどこまで追従するかは不透明だ。
従業員向けレター「今後の経済的見通しは悲惨」
逆風が吹き荒れるなか、輪をかけてTwitterへの信頼を揺るがしたのが「倒産」発言だ。マスク氏は買収完了の2週間後、従業員に向けたレターを通じ、Twitterに倒産のおそれが迫っていることを認めた。
また、ニューヨーク・タイムズ紙は複数の匿名の従業員の証言として、マスク氏が11月10日の会議において「Twitterには生き残りに必要なだけのキャッシュがない」と従業員に警告したと報じている。氏はさらに、従業員に宛てたレターを通じ、「今後の経済的見通しは悲惨」であるとの認識を示したという。