どうやって「V字回復」を果たしたのか

1年目から不採算店を閉め、主要取引先を総入れ替えし、人員配置を変え、1カ月単位、1日単位で自身に課した改革スケジュールを着実に実行に移していった。それまでほぼ実績のなかったプライベートブランド商品の製造開発を改革の柱に据え、新商品を次々投入。2年目には、都心屈指のマーケットを有するJR吉祥寺駅への出店を皮切りに、立て続けに9店舗をオープン。3年で約束のV字回復を達成し、業界をアッと驚かせた。

写真=同社提供
自社開発のドレッシング商品

その髙橋さんが、関西方面への新規出店と合わせ、2020年3月から事業戦略の柱として本格化させたのが、地方各地の百貨店やスーパー内に期間限定で出店する「特別販売会」だった。新型コロナウイルス感染急拡大で自粛ムードが広がりつつあったが、あえて計画を推し進めることを決めた。

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スイーツやドレッシング類など様々な商品で記録的な販売数量を達成したデパートリウボウでの販売会

「お客さまが来られないなら、こちらから出向いていくしかない」。髙橋副社長を筆頭に、自社開発したオリジナル商品を引っ提げ、20~30代の若手スタッフで構成する専任チームが地方から地方へ次々と移動しながら未開拓市場の掘り起こしに走った。

「商品を自慢するのは…」と遠慮してはいけない

販売会は1拠点7~10日の開催。年間52週あるうち、2020年は20週、21年は30週、そして22年は32週へ拠点数を増やしてきた。評判が評判を呼び、リピート開催や新規の出店依頼が絶えない。来年も30週前後の開催を見込み、スケジュールは早々と埋まりつつある。

「都心はモノがあふれすぎていて、本当の価値がわからない、あるいは気づけないまま、次々と移り変わっていき、古いものはどんどん潰れていく。ところが、全国を歩くと、紀ノ国屋を知らない人のほうが圧倒的に多い。価値を見出してもらえる土壌は、まだまだたくさんある」

7年前に髙橋さんが紀ノ国屋に入った当初、社内では「いい商品を売っていても社員がそれをあえて口にすることはしない。そんなことはお客さまがよく知っていますから、という雰囲気があった」と振り返る。そんな社員に髙橋さんはこう説いたという。

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紀ノ国屋をV字回復に導いた髙橋一実副社長

「いや、これは自慢じゃないんだ。お客さまに知ってもらえた商品価値を、次に買いに来てくださる時にはさらに上げておかないといけない。『今度はもっといい商品をつくって持ってきますからね』と、期待を裏切らないようにするための約束と自覚なんです」