成城石井は確かに最強ライバルだが…

こだわりの商品開発や品揃えを得意とし、一般に「高品質」や「高級」とカテゴライズされるスーパーは他にもある。紀ノ国屋はどんな特異性を発揮しようとしているのだろうか。

髙橋さんが紀ノ国屋の改革に携わって7年の間に、同社の売上高は15年度の164億円から21年度は245億円となり、約1.5倍に拡大。来店者数は年間累計914万人から21年は1480万人にまで増えた。自社開発商品は現在約1650点あり、新しい商品が次々と生まれている。

「うちは商品を自社でつくれることが強み。ただし、ちゃんとした価値あるものをつくらなければ、そのコスト自体が経営の重石おもしになっていくことは明らかです。付加価値の高い商品を、価値のわかる人に買っていただける関係性を築いていく。その大切さをスタッフと共有したいと思っている」。髙橋さんはそう言って、こう付け加えた。

「その点、成城石井さんはそれが十分にできているからこそ、最強のスーパーと言えるんですよね」

「正反対の戦略」だから成功した

商品の企画から製造、販売までを一貫して自社で手掛ける、いわゆる「製造小売型」スーパーは、紀ノ国屋をはじめ、元祖といわれる明治屋や、成城石井など有力スーパーがそれぞれの強みとして、しのぎを削っている。中でも、成長著しい成城石井は、売上高1000億円超、店舗数も200店近くに上り、数カ月以内の株式上場を控える。髙橋さん自身も認める、まさに「最強ライバル」だ。

アップルパイは販売会会場に設置したオーブンで焼き上げ販売している
写真=同社提供
アップルパイは販売会会場に設置したオーブンで焼き上げ販売している

「そう。あちらは唯一無二のブランド。でも、同じ土俵で闘うと、みんな“成城石井化”してしまう。だからうちは同じ製造小売でも路線を変えて、自分の土俵をつくっていく。紀ノ国屋は、店をたくさん出して生き残る生態系を持っていないと思っています」

一体、どういうことだろうか。

成城石井は上場による資金調達などを通して、さらに規模のメリットを追求していくとみられる。同社の3000点近くあるオリジナル商品も、チェーン店のように売り先を増やすことで、販売効率を引き上げ、さらに収益を高めることができる。そうなれば、素材にこだわった自社商品を手頃な価格で販売できるという、「上質なディスカウンター」としての存在感はいっそう高まっていくだろう。

これに対し、紀ノ国屋は、新規出店によってブランド認知を広げるのとは「逆の方向性」を目指しているという。