「地域産品+紀ノ国屋ブランド」で勝負

「うちのような小さい会社にとって、これからの新規出店は資金面、人材、在庫管理、どれをとっても非効率になりかねません。だから、安く売らないぶん、付加価値をしっかり上げ、サービスを追求していく。自分たちで売れ筋をつくり、店舗でその価値を最大限に表現していく。今後はセントラルキッチンを強化して、自社店舗と商品卸の掛け合わせで、ブランド価値を高めていきたい」と語る。

店舗出店は全国で13~14都市程度にとどめ、それ以外の30~35の市や地域では卸・FC販売をメインにする。各地の提携企業とアライアンスを組みながら全国津々浦々、海外各地に毛細血管を張り巡らせるように「紀ノ国屋ブランド」をオリジナル商品に乗せ、浸透させていく方針だという。

この3年間、全国をめぐってきた「特別販売会」は結果的に、その独自ネットワークを築くための下準備に位置付けられた。マーケティングであり、パートナー企業の発掘であり、地域に埋もれる素材探しの旅になった。そこから生まれる新たな“逸品”の数々は、100年企業のさらなる進化をうながす源泉となって、企業の成長を引っ張っていく可能性がある。

京都のカステラ、北海道のカシス、瀬戸田レモン…

開発事例をあげると、京都出店に向け発売したのは「京仕立ての台湾風カステラケーキ」。当時東京で人気を集めていた台湾カステラをヒントに、地元京都で人気のカステラ店と共同で商品開発。見た目、風味、食感ともに台湾カステラを超える新たなスイーツとして話題になり、発売から連日行列ができる大ヒット商品に。1年半の京都店限定販売を経て、全国の販売会で売られる定番の催事商品に加わった。

京都出店に向けて開発した「京仕立ての台湾風カステラケーキ」
写真=同社提供
京都出店に向けて開発した「京仕立ての台湾風カステラケーキ」

札幌で出会ったのは、北海道黒松内町のカシス農家。農薬や化学肥料を一切使わず、町内産の堆肥や油かすのみで栽培した果実の品質、風味の良さに惹かれ、既存のカシスジャムをリニューアル。この農家と全量買い付けによる原料供給で契約し、現在、紀ノ国屋プライベートブランド「ALL国産 カシスジャム」として販売している。

北海道産黒松内町産カシスジャム
写真=同社提供
北海道黒松内町産の「ALL国産 カシスジャム」

そして、広島で魅せられたのは、貴重な国産レモンで知られる「瀬戸田レモン」の特別なおいしさだった。生産量が少なく、当初は入手困難とされたが、紹介者を通して生産者とつながり、原料調達を実現。「瀬戸内レモンパイ」、「広島レモンカステラ」などを広島店開業に合わせて商品開発し、連日完売となる新たなヒット商品が誕生した。