元恋人への思いを断ち切れない夫、摂食障害で苦しむ妻

しかし、ダイアナに求婚した後も、チャールズが未練がましい行動をしていたのは英国王室に関心のある人の間では周知の事実だ。

チャールズは「フレッド」、カミラは「グラディス」という偽名を使い、秘密のやり取りを続けていたことがダイアナにバレてしまう。この時期の“フレッド&グラディス”はプラトニックな関係だったらしいが、夫の不実を誰にも相談できなかったダイアナは、のちにBBCの取材に対して結婚前から摂食障害に陥り、何年もこの病に苦しんだことを告白している。

大量に食べては吐くことを繰り返し、さらには自分で自分の体を傷つける行為にも走った。

婚約会見の頃には19歳らしく健康的にふっくらしていた。それなのに、数カ月後の結婚式(20歳)ではかなり痩せてウエストが5インチ(約12cm)も細くなる。それゆえウエディングドレスのデザイナーはドレスをリサイズしなくてはならなかった。

摂食障害も自傷行為も同情の余地が大いにあるものの、(ダイアナの場合)相手の気を引くための“かまってちゃん”の行為と言えなくもない。「私をちゃんと見て! 私をちゃんと愛して!」という無言のメッセージは、夫の妻への愛情が薄い一方通行の関係性の中ではむなしいものに見える。

ダイアナの心の荒みは長男ウィリアムの出産直後の映像にも表れている。泣きやまない息子をあやすために、自分の指を咥えさせた。隣にいたチャールズはハンカチを差し出すが、それをダイアナは無視する。おそらく出産後のホルモンバランスの乱れで、さらに情緒不安定になったのだろうが、これもまた、妻を愛さない夫への抵抗だったかもしれない。

追い払っても追い払ってもしつこく近寄ってくるカミラ

しかもチャールズの映像にちょくちょく写り込んでくるカミラの存在は、観客にも不穏な空気を伝える。ダイアナにとっては、追い払っても追い払ってもしつこく近寄ってくる蚊のようだ。

次男ハリーの出産後には、夫婦仲は完全に冷え切っており、チャールズはカミラと再度男女の関係を取り戻す。カミラへの電話が盗聴された際、「君のタンパックス(タンポン)になりたい」という愛のささやきが切り取られた、通称“タンパックスゲート”は世間を騒がせることになる。チャールズはおおいに恥をかいたが、それでもカミラへの愛を諦めない。

カミラもカミラで、夫がいながらチャールズとの交際を中断しない。挙げ句の果てにダイアナにこう言い放ったそうだ。「世界中の男があなたに恋をし、美しい子供が2人もいる。これ以上何がほしいの?」と。「夫の愛よ」と答えたといわれるダイアナが哀れだ。

1992年にダイアナがインドを公式訪問した際、たった一人で世界遺産タージ・マハールの前のベンチに座る有名な映像がある。ドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』では珍しく、その時の彼女の後ろ姿も映されていた。ダイアナの表情よりもなお、孤独さが感じられた背中がなんとももの悲しい……。