離婚後は自分の存在価値を遺憾なく発揮するダイアナ

王室に嫁いできた頃は、右も左もわからない状態だったが、子供が生まれ、年を重ね、母としても女性としてもダイアナは強靭きょうじんさを備えていった。

その強さは映画『スペンサー ダイアナの決意』のエンディングでも描かれていた。スペンサーはクリスマス前後3日間のロイヤルファミリーとスタッフの人間模様を描いたもので、あくまでフィクション。ダイアナの内なる心の叫びを切なく、美しく描いている。

内容を少しだけ紹介しよう。

楽しいはずのクリスマス休暇でさえ、王室の鬱陶しいルールを強要されるダイアナ。ここでも彼女の摂食障害や自傷行為のシーンが出てきたり、かの悪名高きヘンリー8世に処刑された妻、アン・ブーリンの幻影に翻弄されたり(アン・ブーリンはダイアナの祖先につながる。ダイアナもそのうちチャールズに駆逐されるという寓意)と、不安定なダイアナの様子が描写されていた。

それでも最後は、自分の意志を貫いて、子供たちと共に王室の別荘から勢いよく飛び出す。

実際に王室から飛び出したのは事故死する1年前の1996年。女王の勧告でチャールズと離婚した後は、自分の存在価値を遺憾なく発揮。アフリカの地雷除去やエイズ患者の支援を積極的に行い、その活動内容を各メディアで発信していく。自己アピールが過ぎる面は否めないが、当時、蛇蝎のごとく嫌われたエイズ患者を抱きしめる行為は、容易にまねできるものではない。

貧しく、誰からも振り向いてもらえない弱い立場の人々から熱烈に必要とされることで、ダイアナ自身の自己肯定感が高まっていたのかもしれない。

結局のところ、チャールズはダイアナを妻としては愛せなかった。しかし、溢れんばかりの愛情を息子たちに注ぐ彼女を母親として評価していたといわれる。子供時代のチャールズは公務で忙しい女王からあまりケアしてもらえなかったことが、年上のカミラに惹かれていった原因といった指摘をする向きもある。ダイアナが母性的な愛情を夫に注ぐことができたのなら、二人の関係は違ったものになったかもしれない。しかし、人生に“たら、れば”はない。